作家でコラムニストの亀和田武氏は、週刊朝日で連載中の『マガジンの虎』で、雑誌「ビッグコミックオリジナル」を取り上げた。
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すごいよ。いま「ビッグコミックオリジナル」(小学館)の勢いが止まらない。
能條純一が描く『昭和天皇物語』(原作・半藤一利)のスタートが5月5日号。翌5月20日号からは、伊藤潤二の『人間失格』(原作・太宰治)の連載が始まった。そして次号予告には、ハリウッドを舞台にした山本おさむ『赤狩り』の文字が大きく躍る。
まずは『昭和天皇物語』から。さすが能條純一、絵の巧さによって、物語に説得力が生まれた。さらに「ビッグコミックオリジナル」の編集姿勢も光る。安保法制に始まり、天皇の生前退位、改憲論議と、安倍政権下ではキナ臭い空気が漂うが、メディア側は批判色を極力、薄めようという自粛の気配さえある。そんな時局に、編集部はあえて昭和天皇を題材に選んだ。
半藤一利さんの『昭和史』が原作とある。私見では、半藤さんはバランス感覚に富んだ保守の人だ。先の大戦をイデオロギー的に断罪するだけの左翼でもないし、無批判にあの戦争を聖化して戦前回帰を強める、これまた観念的な右翼とも思想は異なる。
半藤さんの『昭和史』には、教えられることが多かった。なぜ、あの戦争は泥沼化したのか。その過程を具体的に検証する作業には、これぞ「保守」というフェアな見識がある。そんな半藤史観をベースに、よく知られた逸話をちりばめて物語は進む。
まだ幼い昭和天皇が、養育掛となった足立タカと出会い、言葉を交わす場面が印象に残った。傑作の予感あり。
太宰治『人間失格』をマンガ化した伊藤潤二のグロテスクな絵と感性にも圧倒された。いま最もラディカルな雑誌が「ビッグコミックオリジナル」かもしれない。
※週刊朝日 2017年5月26日号