ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「4月10日」を取り上げる。

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 4月10日。言うまでもなく天皇、皇后両陛下の御成婚記念日です。今から58年前、皇居から渋谷を馬車でパレードされたおふたりを祝福するべく、53万人もの人が沿道に集まった、まさに歴史的慶事があった4月10日は、休みでなくとも『祝日』と呼ぶにふさわしい日と言えるでしょう。

 また、この御成婚に際して起きた『ミッチー・ブーム』なる社会現象も全国民周知の事実です。『ミッチー』とは、当時の美智子さまの愛称。「ミッチー世代」ではない私としては、あまりのカジュアルさに慄(おのの)くと同時に、美智子さま以外への『ミッチー称』に対しても、若干の恐れ多さを感じてしまいます。自分の名前もうっかりすれば「ミッチー」になってしまう恐れがあるため、及川光博さんの存在も含め、日々気を付けている次第です。『ミッチーvs.サッチー』なんて言語道断。誠にけしからん。そんな様々なことに想いを馳せてしまう4月10日という日。

 他にも71年前、初の女性参政権が行使された総選挙の実施日であるのにちなみ、『女性の日』にも制定されています。この『女性の日』、かつては『婦人の日』と呼ばれ、なんとも色っぽい響きで好きだったのですが、『アンチ婦人派』もいる理由からか、現在の名前に変更されました。でも、この「選挙権を持ったら大人=婦人」という概念、未熟で幼ったらしい若者娘が蔓延(はびこ)る今こそ必要な気もします。ちなみに『オカマの日』は4月4日です。もちろん国が制定した日ではありませんが、いつかこの洒落すらも『LGBTの日』と呼ばなくてはならない日が来るのかも。

 話が逸れましたが、和田アキ子さん、さだまさしさん、堂本剛さん、デューク更家さんといった錚々たる顔ぶれの誕生日でもある4月10日。実は私も42年前のこの良き日に生まれました。両陛下の16回目の結婚記念日に。『婦人の日』に。ここ数年は、それまでの『誕生日は客を呼んで売り上げに貢献!』という水商売的な呪縛もなくなり、毎年静かに、まだ一度もお会いしたことのない堂本剛さんとお花を贈り合うだけの誕生日を過ごしています。今年もあれこれ仕事をしながら、終わったのが真夜中過ぎ。居合わせた同じ歳の女装仲間たちから、「もしかして知らないの? 真央ちゃん引退よ」と教えられました。いまいち事実と感情が結びつかないまま、いつもの如く薄暗い楽屋でフィギュア談議に花を咲かせていると、あっという間に朝でした。ひとり家に帰ってテレビをつけてびっくり。どのニュースもまるで訃報のような論調じゃないの! 引退発表から引退会見までの36時間、とにかく私は「早く本人の姿を!」の一心でしかなかった。「スケートから愛された天使のようだった」と泣きながらコメントしている人もいたし。

 一ファンとしては、むしろここからどう魅せてくれるかに期待していましたが、「何も背負わず自由に滑る浅田真央は浅田真央にあらず」ということなのでしょうか。相変わらず男前な女です。一点の曇りもない『みんなの真央ちゃん』一色の感情を託される中、最後までその使命を軽やかに務め上げる姿は、さすが日本一。世界一より日本一の方が断然カッコイイ。それに気付けた日本人がたくさんいることでしょう。4月10日における新たな想いの馳せどころとなりました。

週刊朝日 2017年4月28日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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