著書『マチネの終わりに』が話題になっている平野啓一郎さんが、林真理子さんと対談を行ないました。作家同士、共通の知人も多いお2人ですがじっくりお話するのは今回が初めて。京大在学中のデビュー当時のエピソードから幼少期まで、真理子さんが迫ります。
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林:平野さん、デビューして何年ですか。
平野:19年ですね。来年20年なんです。1998年に23歳でデビューしたので。
林:もうそんなにたちますか。茶髪にピアスで、マスコミからずいぶん騒がれましたよね。
平野:それであの小説ですからね。いまでも人に会うと、「はじめまして。『日蝕』買いました。漢字が難しかったです」って言われます(笑)。今回の小説で、そのイメージがちょっと変わるかもしれませんが。
林:たしかに、いつものナイフでちょっと違うものを作った、という感じがしますよ。デビューしたときは、まだ京都大学の学生だったんですよね。新人賞とかじゃなくて、いきなり文芸誌「新潮」に載ったというのもカッコいいですよ。
平野:「新潮」の編集長に手紙を書いたんです。手紙も一種の文才の表現の場だから、この編集長の心を動かせないようではダメだと、これを読んだらどんな人間でも原稿を読みたくなるだろうという手紙を、一生懸命書きました。
林:素晴らしい。もちろん手書きですよね?
平野:はい。ときどき、僕のホームページ経由で「小説を書いたので読んでください」というメールが来るんですが、そのメールの文章がまずおもしろくない。「同じものをいろんな人に送ってるんだろうな」というコピペみたいな文章で、ぜんぜん読む気になれない。「読むな」と言われても読みたいぐらいのタイトルと文章にしないとダメだと思いますよ。
林:わかります。手紙って人の心を動かしますからね。平野さんはデビューしたとたん、あれよあれよという感じで人気作家になりましたけど、当時はちょっとテングになっちゃったりもしました?