「唾液には、健康に欠かせない、消化作用、抗菌作用、粘膜保護作用、粘膜修復作用、歯の保護自浄作用などの働きがあります。口腔内が唾液で潤っていないと抗菌作用が低下、細菌が繁殖しやすくなるのです」

 その結果、歯や歯茎が唾液で守られなくなるため、虫歯や歯周病のリスクが高まったり、洗い流されずに残った菌が死んで腐敗することで口臭がきつくなったりする。コーヒーや赤ワインなどの色素成分も歯に付着したままになり、歯の汚れが目立つようになる。

 口腔内の乾燥による問題は、虫歯や歯周病、口臭などだけにとどまらない。

「当院を受診される患者さんで多いのは、“舌痛(ぜっつう)症”です。乾燥のため舌の表面がひび割れたような状態になって痛みが出る病気で、ひどくなると、ちょっとした刺激でも激痛が走るようになります。このほか、口の中にカンジダ菌が繁殖して“口腔カンジダ症”を発症した患者さんも少なくありません」(同)

 口腔カンジダ症に対しては抗菌薬を使用するが、口呼吸をやめる生活指導が対処法の一つとなるそうだ。生活指導については、後ほど紹介しよう。

 続いて全身への影響をみていこう。冒頭に登場した今津院長によると、本来、鼻はにおいを嗅ぐという感覚器であるだけでなく、空気中に紛れているハウスダストや花粉、微生物などの異物を排除、体に入れる空気を無害化する免疫システムを持っている。

 もう一つ、鼻の大切な役割に、体に取り入れる空気の保湿がある。空気が鼻腔の脇にある副鼻腔という通り道を通ることで湿り気を帯び、乾いた外気が直接肺に入らないようにしている。

「気道や肺には繊毛(せんもう=線毛)という細かい毛がびっしり生えていて、異物などを排出していますが、これらの繊毛は乾燥にめっぽう弱い。口呼吸だと、鼻呼吸による異物排除のシステムが働かなかったり、乾燥によって繊毛の機能が低下してしまうため、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなったり、アレルギー症状が悪化しやすくなったりします」(今津院長)

 さらに、口呼吸で増える歯周病も全身の病気のリスクになることが、最近の研究からわかってきた。歯周病が動脈硬化を進行させて心臓病の原因になったり、糖尿病の悪化をもたらしたりするという。認知症患者の脳から歯周病菌が発見されたという報告もある。

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