半導体部門の売却など、東芝の解体が進む。一方で、捨てられないのが原発事業。海外で巨額損失を出しながらも、再稼働できない国内の“寝たきり原発”は稼ぎのタネ。支えるのは、消費者の電気料金だ。ジャーナリスト・山田厚史氏が取材した。
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腐っても鯛、ということか。東芝が半導体部門を売る、と言った途端、世界から買い手が殺到している。
「非常に真剣に検討している」。台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘董事長は3月1日、中国・広州市の工場起工式で記者団に意欲を語った。昨年買ったシャープの液晶パネル事業の次は、東芝の半導体。成長性ある分野を次々と手に入れようというのだ。
韓国のSKハイニックスも目を光らせる。東芝のNANDフラッシュメモリーを手に入れれば、韓国サムスンとの距離が縮まる。世界有数のハードディスクメーカー・米ウエスタンデジタルも虎視眈々とねらう。
「売りに出す半導体部門への出資比率は柔軟に考える、という綱川智社長の発言で買収合戦は熱を帯びた」
市場関係者はいう。4月に分社化される半導体事業は、2兆円もの破格の値。経営の主導権を残そうと、当初は株式の20%未満を売る方針だった。しかし、「少数株主では意味がない」と買い手は腰が引け、必要な資金が集まりそうにない。「全株売却もあり」と方針転換した途端、あちこちから触手が伸びた。今や、「100%譲るから、2.5兆円で」とプレミアム付きで売る算段まで浮上する。
一方で、団塊世代の東芝OBは納得できないという。
「事業への愛が感じられない。再建するなら、結果を出している事業を残して不採算部門を切る。これが常道ではないのか」
昨年、稼ぎ頭だった東芝メディカルシステムズを約7千億円でキヤノンに売った。医療機器事業は技術と販売の部門が結束し、CTで世界2位の会社に育てた。赤字解消のために泣く泣く売却し、当時は「まだ半導体がある」といわれた。今度は半導体まで売られる。口を開けて待つのは外資だ。
東芝労組は春闘の統一交渉から抜けた。ベアを要求できる状況にない、ということだろう。30代社員は「口には出さないけど、この会社はどうなるのだろうとみな不安です」という。