人との出会いや大きな出来事など人生に影響を与えるものは多くあるが、本もそのひとつ。京都大学の山極壽一総長は『ゴリラとピグミーの森』(伊谷純一郎、岩波新書)を一読して衝撃受け、「これが進む道だ」と確信したという。
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ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹さんに憧れ、物理学をやろうと思って京大の理学部に入りました。
そんな私の人生の転機となったのが、1961年に出版された『ゴリラとピグミーの森』。著者の伊谷純一郎さんが独立前夜のアフリカ・ケニアに単身乗り込み、野生のゴリラを調査した記録です。密林の奥で、今まで見たことも聞いたこともなかった体験を積み重ねます。「これはすごい」と、読んでいて大感激しました。
ゴリラに会うのが目的だったが、調査で一緒になったピグミーの人たちと話しながら、彼らの生活に魅せられていく。文明社会から見捨てられたと思われたピグミーの生活に、人類の本質があるのではないか。そんな思いが交錯していく。
本書で問われたのは、ゴリラと同じ祖先から進化した人間の存在です。私は人間でありながら、その由来を確かに理解していない。当時、そのことに衝撃を受けて「これが進む道だ」と思いました。恥ずかしいことに、著者が京大理学部の教員と後から気づき、すぐに研究室を訪ねました。
読んでいて印象的だったのは、バーのシーンです。