将棋ソフト不正使用騒動に揺れた三浦弘行九段が復帰戦で大熱戦。2月13日の竜王戦予選トーナメント1回戦では、将棋界に君臨する羽生善治三冠を相手に12時間(休憩時間を含む)を超える激戦を繰り広げた。羽生三冠に惜しくも敗れはしたが、将棋ファンには「三浦九段健在」を印象付けた。対局を生中継したインターネット動画サービス「ニコニコ生放送」では、累計視聴者数が35万人を超えた。
昨年、対局中に席を立ち、スマートフォンを用いて指し手を調べている疑惑が持ち上がった三浦九段。第三者調査委員会の調査で疑惑は晴れ、無事に復帰がかなったが、必ずしも安泰ではないとの見方がある。4カ月のブランクは大きく、普段では考えられないミスが続き、相手の罠(わな)、良手に気づかない可能性もあるという。また、10人の棋士で競い、2人が降級する今期の名人戦A級順位戦で、三浦九段は1勝3敗の時点で出場停止処分を受けたが、特例でA級に残留した。そのため、来期は11人で競い、3人が降級する過酷なリーグ戦となる。
だが、元「将棋世界」編集長の大崎善生さんの見方は異なる。
「4カ月休んでも実力が落ちるとは思えない。競馬でも馬を放牧して強くする。羽生三冠だって休みを取ってヨーロッパでチェスをする。十数年にわたって毎日訓練してきたわけですから、ブランクはどうってことはない。だからこそのA級棋士です」
14歳で史上最年少プロとなった藤井聡太四段が、現役最年長棋士の加藤一二三(ひふみ)九段に勝利し、将棋映画「聖(さとし)の青春」、将棋アニメ「3月のライオン」が話題を集めるなど、明るいニュースが続いただけに、一連の騒動は「もったいない」という声も漏れる。
今月27日に臨時総会が開かれ、常勤理事にとどまる5人の解任は必至だ。三浦九段も記者会見で、金銭的補償については弁護士に任せていると明かすなど、余波は続く。将棋連盟の地に落ちた名誉は回復できるのか。悪手(あくしゅ)だけはご免被りたい。
※週刊朝日 2017年2月24日号