西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、ソフトバンクの宮崎キャンプに訪れて田中正義投手と1年目の松坂大輔投手を重ね合わせ、両者への期待を口にする。

*  *  *

 2月1日から宮崎でキャンプを見て回っている。1日はドラフト1位で5球団が競合したソフトバンクの田中正義のブルペン投球に着目した。素材としての確かさをいくつか感じたよ。

 まず、投げ終わった時の右腕が左の脇の下へ深く入り込んでいることが素晴らしいよね。あれだけ腕を振ってこられるのは球持ちが長い証拠でもある。あの身長(1メートル86センチ)があって、それができる選手は本当に少ないんだ。私が西武監督時代の1999年に1年目だった松坂大輔もそうだった。背中に腕が当たった時のバチンという音が聞こえてきた。右腕が体の芯に巻き付いていく形も申し分ない。

 腕を振ることは、投手にとっては当たり前のことだが、それを極限までできる投手は少ない。ルーキーだった大輔は右腕が左半身の脇腹から背中にかけて当たっていた。足首の硬さは気になったが、それに勝る長所を大輔は持っていた。

 田中に関してはそれだけじゃないよ。プロの世界では、球速はもとより、いかに打者に打たれにくいのかが長く生き抜く分岐点となる。左足を高く上げ、体重移動する時の左肩の使い方が抜群だ。左肩がしっかり右打者の内角方向に入って開かない。体が死角になり、打者はボールが見えにくい。右腕も見えてこない。これだと打者は思いきって踏み込むことはできない。

 私は田中のような150キロを投げる投手ではなかったから、あえて右打者の内角に肩を入れて、外角にスライダーを投じていた。田中はあれだけの球威を誇りながら自然とできている。左肩で作った「壁」により、相手打者は球速以上の打ちづらさを感じるはずだ。

 まだキャンプ序盤だし、修正点や課題を論ずる必要はない。ただ、これだけのポテンシャルを持った選手だからこそ、スケールの大きい選手に育ってほしいし、だからこそ、アドバイスしたいことがある。これだけ注目されている投手だし、低めにいいボールを投げたいとも思うだろう。ただ、今の時期は無理をして低めへ投げなくてもいい。捕手を立たせた状態で高めへスピンの利いたボールを投げ、少しずつ(捕手の腰を)落としていけばいい。大輔もそうしていた。そうすれば、だんだん本来の力を出せるようになる。

 
 オープン戦で結果をほしがる必要もない。ボールの質さえ良ければ、工藤監督が見てくれている。大輔の時は最後の最後まで結果が出なくて困ったなと正直思ったが、それでも1試合しっかり投げてくれたことで、開幕ローテーションに入れる理由がついた。田中も試合だけですべてが決まるわけではない。結果を求めてこぢんまりとなることだけはいけない。

 松坂大輔のブルペンも見たよ。正直言って、過去2年のキャンプ初日を見た時の印象とはまるで違った。確実に投球フォーム、体の使い方、そしてボールへの力の使い方はスムーズになってきている。もともと能力の高い選手。最善のことをいったらキリがないが、ほとんど貢献できなかった過去2年との違いはある。

 大輔には、今年が生きるか死ぬかの分かれ目だとの覚悟を感じた。底知れぬ可能性を持つ新人と、日本球界を背負ってきたベテランの意地をキャンプ初日から見ることができた。昨年は3連覇を逃したソフトバンクだが、投手に関しては、上積みを期待できそうだ。

週刊朝日  2017年2月17日号

著者プロフィールを見る
東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

東尾修の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
台風シーズン目前、水害・地震など天災に備えよう!仮設・簡易トイレのおすすめ14選