ここまで追い詰められたのはなぜか。話は06年にさかのぼる。米国の大手原発メーカー、ウェスチングハウス(WH)買収だ。約6千億円の買収額は国内電機メーカーとして異例の規模で、原発事業で世界のトップランナーに躍り出た。
ニッセイ基礎研究所の百嶋徹上席研究員は「国際競争が激しくなるなかで、事業の選択と集中のため買収に踏み切ったこと自体は、当時の経営判断として間違いでなかった」と評価する。
問題はその後だ。福島の原発事故を機に、経営環境は急速に冷え込んだ。WHの価値は買収額に見合わず16年3月期に約2500億円の損失を計上したが、東芝は原発事業にさらにのめり込んでいった。
WHは15年末、原発建設を手がけるCB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)を買収。原子炉の設計から燃料製造、建設まで一貫して担うことにした。S&Wは米国での原発建設に伴う債務などがあり、契約上の買収額は0円。「タダより高いものはない」との言葉通り、これが数千億円の損失につながる。膨らんだ建設費を電力会社などにまわせず、S&Wがコスト増をかぶるためだ。
問題が東芝経営陣に正式に伝わったのは、16年12月中旬という。綱川社長は12月27日の会見で謝罪し、「リスクをチェックした時期が遅かった」と述べた。東芝は不正会計の発覚などで、管理体制の甘さがたびたび指摘されていた。改善が不十分だとして、東京証券取引所から「特設注意市場銘柄」に指定されている。
米格付け会社S&Pグローバル・レーティングは1月24日、投機的水準だった長期会社格付けを1段階下げ「CCC+」にした。財務改善に時間がかかるうえ、「戦略遂行やリスク管理といった能力が損なわれており、想定以上に深刻」としている。原発事業のリスクを経営陣がしっかり把握できず、社内の相互チェックも機能していなかった。
※週刊朝日 2017年2月10日号より抜粋