ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、クリスマスと歌手の関係について。

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 クリスマス。意外と思われるかもしれませんが、私、結構好きなんです。とは言っても、イブに恋人とホテルへ行くとか、みんなで楽しくパーティ的なザ・クリスマスを満喫した経験はほぼありません。芸能・サービス業というのは、基本『与える側』であり、世の中が気分を高めるための手がかりみたいなものです。サンタの格好でショーをしたり、クリスマスソングを歌ったり、来店した客にケーキを振る舞ったり、大なり小なり自分自身が季節やイベントの一部となり、それによって世間が「ああ、クリスマスだな」と感じ入ってくれれば「毎度あり!」なのです。

 クリスマスというのは、他のどの年中行事よりもエンタテイメント性に富んでいる上に、平和と殺伐が同じ分量存在しているので、様々なスタンスを取ることができます。桜やハロウィンでやさぐれていても画になりませんが、クリスマスにはそんな否定的な感情すら内包できてしまうケバさがある。無礼講や無節操にも奥ゆかしさがあって、人間のいじらしさが見える。だから好きなのかもしれません。

 そして街にはクリスマスソングが流れます。欧米ではクリスマス週のヒットチャートを巡って、かなり明白(あからさま)な取引も行われるぐらい、世界中の音楽業界にとってクリスマスは最も大きな鉱脈です。毎年あらゆるアーティストたちによるあの手この手のクリスマスソングが世に送られます。単独でクリスマスアルバムをリリースできれば、それは一大ステータス。アイドルの証しでもあるわけです。景気の良かった時代には、日本の音楽シーンでもそのような需要と供給が乱立していました。

 
 聖子ちゃんや明菜ちゃんを始め、ミコちゃんこと弘田三枝子、お嬢・美空ひばりなどが歌う『ジングルベル』各種。由紀さおり・安田祥子姉妹による多重アカペラ録音の賛美歌。曲調がまさかのオフコース風で度肝を抜かされる、松山千春さんのオリジナルクリスマスソングなど。様々な思惑で誕生したであろうクリスマスソングを収集するのも、また一興。中でも傑作なのが、92年に美川憲一さんが発表された『美川憲一のオシャレなX,mas』というアルバムです。当時高校生だった私の『オシャレ概念』を見事に粉砕したこの作品。美川さんの低音が地鳴りのように響く『きよしこの夜』や、ラテン調にアレンジされた『赤鼻のトナカイ』、今もってどの市場に向けて作られたのか分からないオリジナル曲『淑女は聖夜に恋をする』など、これを聴けば今日から貴方もクリスマス好きにならずにはいられない全7曲。名盤! もちろん現在は廃盤! 私もこれぐらい攻撃的な気構えでクリスマスに加担できるよう、もっと精進しなければと思わせてくれる一枚です。

 さて。今シーズンも安定して、日本のクリスマスを一手に牛耳る山下達郎・竹内まりや夫妻。スタンダード化したステータス。もはや完全なる勝者です。それにしても、『クリスマスが今年もやって来る♪』と散々フライドチキンを煽っておきながら、いざ当日は、『きっと君は来ない、ひとりきりのクリスマス・イブ♪』って。ずいぶんな話です。しかも夜更け過ぎまで雨ですからね。これぞまさに諸行無常。資本主義は刹那とわがままの上にある。廻れ、経済! メリークリスマス!

週刊朝日 2016年12月30日号