カムバック・バンドのレパートリーは誰が作曲したのだろうか
In Boston (Sapodisk)
1981年カムバック・バンドをテーマに研究・検証・追求・解明したいといいながらすでに数年が過ぎ去ってしまったわけですが、入口のひとつとして、まずはカムバック・レパートリーの作曲者は誰か、それらの楽曲はどのようにして完成したのかという問題の解明があります。たとえばこの82年ボストンでのライヴですが、当時の典型的なレパートリーならびに曲順となっている。そして《マイ・マンズ・ゴーン・ナウ》以外はマイルス作と、いちおうはクレジットされている。ただし《ジャン・ピエール》に関しては「どこかで聴いたフランスの童謡だったかもしれない」とマイルス自身が語り、以前マイルスが口ずさんでいたメロディーをギル・エヴァンスが覚えていて、「マイルス、あのメロディーを吹いたらどうだい?」とかなんとかいって浮上したらしい。
ところがその他の曲に関しては、まったくわからない、ちょっとわかっている、なんとなく見当はつくといったように大別され、まあ結論としてはわからないわけです。もちろん、《バック・シート・ベティ》のアタマの"ジャーン"は「作曲か?」と問われれば「ウーム」と腕を組んで考え込まざるをえないワタシではありますが、"ジャーン"を思いついた時点で「すごい!」わけで、やはり作曲の一環だと激しくマイルスの肩をもちたいこの気持ち、お察しください。同じことは《アイーダ》にもいえることで、先発の"ジャーン"よりはいくらか曲らしいといいますか、楽曲としての顔を装っている。とはいうものの、これまた「作曲か?」と詰問されれば「ウーム」は避けられないところではあります。
次にやってくるのが《イフェ》ですが、これが難関。これは楽曲とは呼べないのではないか。豪邸を建てるつもりが途中で資金計画に支障をきたし、泣く泣く中古物件に移らざるをえなくなった、そのような残念感と挫折感を感じてならないのです。つまり楽曲までもっていこうとしてもっていけなかった、しかしそれを潔く認めず、「まだなんとかなる」とやせ我慢している、そのようなマイルスの背中が泣いているとでもいいましょうか。
もっとも厄介かつ解明のしがいがあるのが《ファット・タイム》でしょう。これは楽曲としてデキすぎている。とてもマイルスが生んだ子供とは思えない。となれば当然の如くギル・エヴァンスの顔が思い出されるわけですが、ギルにしては粗いのです。だから謎は深まるわけです。検証はいずれ、ということで82年のボストン、「またか」ですが、音がリアルなので検証派には欠かせません。
【収録曲一覧】
1 Back Seat Betty
2 My Man's Gone Now
3 Aida
4 Ife
5 Fat Time
6 Jean Pierre
(2 cd)
Miles Davis (tp, key) Bill Evans (ss, ts, fl, key) Mike Stern (elg) Marcus Miller (elb) Al Foster (ds) Mino Cinelu (per)
1982/4/1 (Boston)