廃炉が検討されている高速増殖原型炉「もんじゅ」。しかし、政府はその後継となる高速実証炉を開発しようとしている。ジャーナリストの田原総一朗氏は、疑問だらけの高速炉開発に「許されない」と憤る。
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11月30日に、政府は非公開の高速炉開発会議で、高速増殖原型炉「もんじゅ」の後継となる高速実証炉の開発を国内で進める方針を示した。
「もんじゅ」は、プルトニウムを燃やすと、逆にプルトニウムが増加する「夢の原子炉」として期待されたのだが、稼働後まもなくナトリウム漏れ事故を起こし、それから20年以上もまともに運転できなかった。つまり、使い物にならない原子炉だった。もちろん性能も安全性も確認できていない。それでいて1兆円以上の費用がかかっているのである。
「もんじゅ」は廃炉が検討されている。当然である。典型的な失敗例だ。だが、それにもかかわらず、高速炉開発会議は今後10年程度で実証炉の基本的設計思想を固めるという。
ちょっと待ってくれよ。
原発の開発は、実験炉から原型炉、そして実証炉を経て実用化を目指すのが常道である。ところが、原型炉の「もんじゅ」が無残に失敗したのに、なんと、いきなりその先の実証炉を開発するという。これは計画それ自体が無責任ではないのか。
そもそも議論に参加したメンバーが偏っている。経済産業相、文部科学相、電力会社でつくる電気事業連合会、原子炉メーカーの三菱重工業、そして「もんじゅ」の運営主体である日本原子力研究開発機構と、失敗した「もんじゅ」の関係者ばかりだ。
失敗の責任者たちが集まって、新たな実証炉の開発を考えるというのは、あまりにも無責任だ。
それにしても、なぜ高速炉開発にここまでこだわるのか。私は民主党内閣の野田佳彦首相(当時)が、2012年9月14日に「原発ゼロ計画」を発表したときのことを思い出した。
その理由の一つは、六ケ所村に再処理施設がある青森県が「再処理を認めないのならば、施設で保管している使用済み核燃料を、すべて全国の原子力発電所に送り返す」と言いだしたことだ。これには野田内閣は非常に困惑した。使用済み核燃料を送り返されたら、どの原発でも保管のしようがないからだ。
結局、野田内閣は六ケ所村での使用済み核燃料の再処理を認め、青森県の怒りを抑えるために大間原発の建設も認めたのである。
私は今回、政府が新たに高速炉開発を決めた要因の一つも同じではないかと考える。「もんじゅ」を廃炉にすれば六ケ所村で使用済み核燃料を再処理する理由がなくなる。それによって、また全国の原発に使用済み核燃料を送り返すという話になるのを避けたかったのではないか。
もう一つ、厄介者の「もんじゅ」に長年、つき合ってくれた福井県への配慮もあるのではないか。福井県の西川一誠知事は11月25日に、文科、経産の両大臣に「地元は積極的に協力してきた。あやふやな形で店じまいをするようでは困る」と苦言を呈している。
だが、高速炉開発は米国も英国もやめてしまった。政府が頼りにしているフランスの「ASTRID」計画も、仏政府は数年後に建設の是非を決めると言っている段階である。
疑問だらけの高速炉開発を、お手盛りの会議で決めて莫大な税金をつぎ込むのは許されない。
※週刊朝日 2016年12月16日号