──選曲についてはどう思いましたか?

鮎川:彼らは選曲者としても素晴らしいよね。若い頃からジミー・リードやハウリン・ウルフもやってきたし、フレッド・マクダウェルの「ユー・ガッタ・ムーヴ」やロバート・ジョンソンの「ストップ・ブレイキング・ダウン」をやったり。それは啓蒙でもあり、ストーンズはいつも信号を発してる。俺たちの向こうにはこんな凄い音楽があるんだって教えてくれるんです。

仲井戸:リトル・ウォルターはやると予想していたけど、まさか4曲もやるとは思わなかった。しかも「この曲を選ぶか!」という意外な曲をピックアップして、新鮮な驚きがあった。

鮎川:ミックはリトル・ウォルターが大好きなんだよね。マディ・ウォーターズからも影響を受けたけど、リトル・ウォルターの節回しや声の出し方が大きいね。ちょっとロンサムで頼りない感じを出している。

仲井戸:ハウリン・ウルフも有名曲ではなく「コミット・ア・クライム」だったり、ライトニン・スリムを選んだのも驚いたね。

鮎川:俺も「コミット・ア・クライム」を自分のラジオ番組で繋ぎの曲として流していたよ。ヒューバート・サムリンのギターのリズム感のすばしっこさが光るね。ミックは「コミット・ア・クライム」を数年前(2012年)、ホワイトハウスでのオバマ大統領のためのライヴで、ジェフ・ベックとやっている。ええ曲選んどるな、って思った。

仲井戸:俺たち世代はハウリン・ウルフといったらやっぱり「リトル・レッド・ルースター」の思い出。ストーンズのヴァージョンはイギリスのチャートで1位になっているんだ。あれをシングルにするというセンスも凄い(笑)、それが1位になるというイギリスも凄い(笑)。

──演奏はどうですか?

鮎川:このアルバムを聴いて、あまりに嬉しくてストーンズのヴァージョンとオリジナルを並べて聴いてみたけど、実にストーンズらしく、自由に演奏しているね。本来ブルースは自由な音楽なんだよ。日常生活では綿花畑で働いて、親方やら保安官やらに束縛されるけど、音楽の中だけでは誰にも束縛されない。ストーンズもそう。マジック・サムの曲だからって、マジック・サムのように演奏する必要はない。

──オーティス・ラッシュの「アイ・キャント・クイット・ユー・ベイビー」とリトル・ジョニー・テイラーの「エヴリバディ・ノウズ・アバウト・マイ・グッド・シング」でエリック・クラプトンがゲスト参加していますね。

仲井戸 ストーンズがオーティス・ラッシュやマジック・サムの曲をやるのは珍しいかもね。彼らはB・B・キングやフレディ、アルバートの“3大キング”の路線には行かなかった。

鮎川:初期のストーンズはマディやウルフ、エルモア・ジェイムズ、ジミー・リードなど、自分より年上の1950年代ブルースを主にやっていたね。異色なものではスリム・ハーポやマーヴィン・ゲイもやっていた。“3大キング”の曲は先にジョン・メイオールに取られてしまったから、あえてやらなかったのかもね。

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