逃げるように仕事をしている。
今年の4月から放送されたドラマ「ゆとりですがなにか」の脚本を書いている最中、11月に上演される舞台のことを考えていた。
「あんなことがしたい、こんなことがしたいと夢想してましたね。僕、来た仕事は全部やりたいと思っちゃうほうなんですが、いざ脚本を書き始めると苦しくて、つい“早くこの仕事から抜け出したい”ってなる(苦笑)。そんなときは、次の仕事のことを考えるとラクになれるんです」
「ゆとり~」は、宮藤官九郎さんが連続ドラマで初めて、コメディーではない、自分の得意技に頼らないものをやろうと思って取り組んだ作品だった。
「定年のない、退職金もない、老後が心配な職業を選んでしまったからには(笑)、とにかく健康に、死ぬまで働きたいんです。僕が好きな市川森一さんにしても、黒澤明監督も、岡本喜八監督も深作欣二監督も、みんな生きている間は、コンスタントに作品を発表している。僕自身、長く続ける以上の目標はないので、作風を固定しないようにと思って」
2013年、NHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」が大人気を博す一方で、同時期の映画「中学生円山」では、下ネタを連発。宮藤さんは、「自分の中のポピュラーな部分を集めたのが『あまちゃん』で、極私的でマニアックな“不親切な作品”が『中学生円山』になる。どっちが本当の自分なのかわからない」と話すが、理屈抜きで“やっていて楽しい”と思えるのは、コントとバンドなのだそう。作・演出・出演を務めるステキロックオペラ「サンバイザー兄弟」では、存分に、好きな音楽と演劇とを融合させている。今年上映された映画「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」でも、セットに演劇的な手法を取り入れていた。映画にドラマに舞台。脚本と演出と出演。音楽と芝居など、ジャンルの垣根を越えて活躍している宮藤さんも、とはいえ09年に初めて歌舞伎に挑戦したときは、目利きたちのシビアな態度に打ちのめされたことがあったとか。