
テレビの瞬間最高視聴率が広島地区で70%を超えた今年の日本シリーズ。注目を集めたのは現役引退を表明した広島カープの黒田博樹と、投打の“二刀流”を体現する日本ハムの大谷翔平だ。気になる2人の今後の動向は……。ノンフィクションライターの渡辺勘郎氏が筆をとった。
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「今回はおもしろい日本シリーズだ、と思った野球ファンが多いのではないでしょうか。それは、きっと黒田博樹のおかげです」
長く野球を取材してきたスポーツ紙のデスクが、こう語っていた。広島カープの後輩たちはもちろん、対戦相手の日本ハムの選手たちも、今季限りで引退する黒田の最後の舞台であることを意識し、恥ずかしいプレーはできない、という気持ちが独特の緊迫感、集中力を生んだ、というのだ。
その筆頭が、プロ4年目で初の日本シリーズ出場となった22歳の大谷翔平。意外だが41歳の黒田も初のシリーズ出場で、これまで一度も公式戦での対戦がなかった2人の邂逅(かいこう)が、今回の日本シリーズの最大の見せ場でもあった。
第1球は、ストライク。2球目もストライク。
ポンポンとテンポよく、黒田は投げ込んでいく。これが彼の現役最後の登板になるのかも……というウェットな視線を感じないはずはないのに、当の本人はいつもと変わらず先発投手として“試合を作る”ことだけを意識して淡々と投げだしたように見えた。10月25日、札幌ドームで行われた第3戦の一回裏、日本ハムの攻撃時である。
黒田の感情が初めて動いたように思えたのは、この日DHとして3番に入っていた大谷に対してだ。
1死一塁の場面で打席に入った大谷は、初球、外角に逃げていくツーシームを巧みに三塁線に打ち返して二塁打にしたが、二塁に達すると、こぶしを突き上げたのだ。
よほどうれしかったのかもしれないが、大谷にしては珍しく、打たれた投手を刺激する所作だった。黒田は続く中田翔をショートゴロに仕留め、その間に三塁走者が生還。1、2戦で連敗していた日ハムに今シリーズ初の先制点を許すも、その最少失点だけで締めたのは黒田“らしさ”だろう。
大谷は四回裏の2打席目でも内角球を右中間へ運んで2打席連続の二塁打とし、黒田の首を傾(かし)げさせた。
そして六回裏、1死走者なしの場面で迎えた大谷の3打席目。黒田は大谷をレフトフライに打ち取ったが、直後に両手をひざにつくただならぬ事態に。実はこの回の初めからふくらはぎがつっていたという。