西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏が、クライマックスシリーズで勝ち残るチームを予想する。

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 いやあ、本当に日本ハム大谷翔平は素晴らしい選手になったな。重圧をはねのける精神コントロールが素晴らしい。まだ22歳か。どこまで成長していくか、想像もつかない。

 日本ハムの4年ぶりの優勝がかかった9月28日の西武戦(西武プリンスドーム)で1‐0での完封勝利。大谷は15三振を奪いながら、125球でおさめた。まず、ストライクゾーンでどんどん勝負できなきゃ、この球数では抑えられない。大一番で慎重になるどころか、攻め抜いた心の強さをまずはたたえたい。

 大谷は昨年までなら、立ち上がりに制球を乱すシーンがあった。球威、変化球のキレも抜群なのに、なぜか力んで投球フォームのバランスを崩すことがあった。でも、今はそのブレもない。あれだけの球威があれば、スタミナ十分の序盤は力を入れずとも、速球はファウルでカウントを稼げる。打者が球数を投げさせようと待球作戦に来れば、3球勝負で三振も奪える。だから、どんどんストライクゾーンで勝負していいと思っていたが、もうそんなアドバイスも必要ないな。

 打者が球威に慣れてくる中盤以降の変わり身も見事だった。スライダーのキレがいいと見て、配球の軸に据えた。たとえ、スライダーが真ん中付近に来ても、打者は速い球が頭にあるから、捉えきれない。試合を支配できる投手になった。

 この優勝で、日本ハムはクライマックスシリーズ(CS)ではファイナルステージからの登場となった。大谷の使い方が楽になる。10月12日のCSファイナルステージ初戦に先発し、第2戦以降は打者で使える。1勝のアドバンテージを持ってスタートできるから、大谷の先発の間隔を無理に狭める必要はない。投手としては、CS初戦先発の次は10月22日の日本シリーズ第1戦といった起用もできる。

 二刀流を巧みに操縦した栗山英樹監督にも頭が下がる。絶対に故障を起こさせない起用だった。大谷が右手中指のマメの故障が起きた7月中旬以降、投手として投げさせたい場面はあったろうが、我慢した。開幕当初に守護神であった増井を先発に配置転換させるなど、大谷という絶対的な武器を生かすチームを作り上げた。

 
 9月21日の天王山となったソフトバンク戦(ヤフオクドーム)で大谷を先発させるため、9月上旬から逆算して、1軍のマウンドで調整登板させた。大谷という「規格外」の選手の起用はセオリーだけでは駄目。栗山監督が柔軟な発想で起用した結果だし、大谷も栗山監督に感謝の思いだろう。

 これでセ・パの優勝球団は決まった。短期決戦を予想するには早いが、セは広島が本来の力を発揮すれば、日本シリーズ進出の可能性は高い。パ・リーグも日本ハムが優位と見るが、ソフトバンクが本来の勝負強い打撃を取り戻せば、互角の戦いが期待できる。下克上を狙うロッテは、3戦勝負のファーストステージは突破する可能性はあると思うが、4勝しなければいけないファイナルステージは苦戦が予想される。

 今季もいろんなドラマがあった。25年ぶりの優勝を決めた広島、球団初のCS進出を決めたDeNAのそれぞれの本拠地が盛り上がったのはうれしかった。CS、日本シリーズが今から待ち遠しい。

週刊朝日  2016年10月14日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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