佐々木氏は、報告書で示されたデータをもとに、7月13日にA氏の後任の病院経営本部長となるB氏にあらためてプロセスの不備を説明し、「善処する」と言われたが、報告書は黙殺されてしまった。

「その後、私に最後の説明があったのは10月21日でした。その時に私に説明をした都の政策企画局長は、『舛添(要一)知事のレガシー(遺産)にするために青山に建てることが決まった』と言いました。そんなことはおかしいと感じましたが、知事の決定には従わざるをえません。それ以降は何も言えなくなりました」(同)

 そして10月22日には、舛添氏によって青山エリアへの移転の方針が決定されたのである。

「誤解してほしくないのは、私は現地建て替え案に固執していたわけではありません。調査の結果、各案を比較検討して、青山エリアへの移転が最適なら、それを受け入れるつもりでした。それが、移転した後の病院経営に必須の患者の需要調査すらされていない。結論に至るまでのプロセスが、おかしいのです」(同)

 佐々木氏と都の間で交わされたやり取りについて都に尋ねると、

「都庁職員は、職員同士や都議との間で日常的にやり取りを行っており、そのすべてを把握しておりません」(病院経営本部)

 佐々木氏はその後、16年3月末に異動となって院長の職を離れ、4月からは東京都保健医療公社の副理事長に就任している。だが、災害医療の第一人者である佐々木氏に、その専門性を生かすような仕事は与えられていないという。

 自民党東京都連の最高顧問を務める深谷隆司氏は、都庁の実態をこう語った。

「小池(百合子)さんは都議会自民党をブラックボックスと言ったけど、本当の敵は都庁内にもいます。ここを変えなきゃダメだ」

 15年度に都が広尾病院に補填した額は約27億円。十分な病院経営計画もなく、移転を強行すれば、さらに都民の負担は増えかねない。将来、“負のレガシー”になる前に、移転計画は白紙撤回すべきではないか。(本誌・小泉耕平、亀井洋志、上田耕司、西岡千史)

週刊朝日 2016年10月14日号

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