熟年離婚などの言葉が定着するように、長い夫婦生活のなかでひずみは生じるもの。そうしたなかで、あえて離れて暮らす“卒婚”や夫婦関係の“リフォーム”を行う人たちがいる。どちらも互いの自由を尊重するライフスタイルだ。その“新しい夫婦のカタチ”とは。
首都圏でネットショップの運営会社を経営する加納みどりさん(仮名・59歳)は結婚30年目を迎えた今年4月、“自然の流れ”で卒婚した。
夫で地方公務員の良一さん(仮名・60歳)が、街づくりを担当していたキャリアを買われ、東日本大震災の復興支援業務のスタッフとして東北の被災地で働くことになったのが、きっかけとなった。
「これまでの生活ががらりと変わったことは確かですね」とみどりさん。
子供のいない二人だけの夫婦生活だった。経営者として多忙なみどりさんに代わって、良一さんが食料品や日用品をこまめに購入していた。結婚に大反対していたみどりさんの両親は、7年前に相次いで亡くなったが、良一さんはその両親を引き取り、3年間も介護してくれた。
「今は、トイレットペーパーを始め、Amazonで買っています。掃除も洗濯も、これまで夫にやってもらっていましたが、全部自分でやっています」
離れて暮らしてみると、相手の良さが「悔しいほど」わかるようになったという。
「夫が赴任してから、LINEやスカイプで連絡をとろうとしましたが、現地はネット環境が悪くて。そこで毎朝7時に夫が電話をしてくれます。誕生日も結婚記念日も、親の命日も忘れる私なのに、彼はちゃんと覚えている。ちょっとしたことですが、とてもありがたく感じます」
別れた暮らしは、体調を見直すきっかけにも。良一さんは、三陸の魚介類や野菜を毎日食するうちに、健康診断で懸念していたような病気の兆候は消えた。朝、昼、晩の食事の写真をメールで送ってくるそうだ。みどりさんもかねて挑戦したかったダイエットがうまくいき、4カ月で5キロ痩せ、高血圧気味だったが、正常値に戻った。
会えるのは年5回ほど。人前でもかまわず大げんかをしていた姿は、ない。みどりさんは30年にわたる夫婦の積み重ねが支えであることを認め、“自然卒婚”の成功を次のように語る。