西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏が、先日マウンドに戻ってきた日本ハム大谷翔平投手(22)の仕上がり具合を診断する。
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日本ハムの大谷翔平が9月7日のロッテ戦(札幌ドーム)で投手として“復帰”した。7月10日のロッテ戦で右手中指のマメをつぶし、同24日に中継ぎで投げたが、先発としては59日ぶりのマウンド。2回1失点だったが、この登板は、シーズン最終盤、そしてクライマックスシリーズ(CS)へ向けての大きな一歩となったと思うよ。

 自己最速の163キロが出たというが、おそらくスピードガンがどこかおかしかったのだろう。体全体を使っておらず、8割程度の力で投げていたと思う。ステップ幅も本来より半足分ほど狭かったようだし、踏み込みの力強さもなかった。速球でファウルが取れなかったのは、体全体のウェートが球に乗らず、球威がなかったせいだ。

 だけど、心配はしていないよ。「大きな一歩」としたのは、体の使い方がしなやかで、バランスが良かったからだ。マメというのは、完治に時間がかかる。じっくりと固めていかなければいけないし、固まる前に指先に負荷をかければ再発する。段階を踏んで負荷をかけるという意味でも、今回の登板では適度に力が抜けていた。

 しかも、ロッテの打者のタイミングがずれていた。「これぐらいの力の配分でも抑えられる」となれば、大谷がステップアップするヒントになると思うよ。

 久々の登板でやってはいけないことは力んでバランスを崩すことだ。余計な箇所に負荷がかかるし、違う故障にもつながる可能性があるからだ。

 私も西武での現役時代に右腕の痛みで力いっぱい投げられないとき、フォークボールの握りでチェンジアップとして投げたところ、打者が対応に苦慮していた。新たな発見になった。

 投手出身の監督だったら、優勝を争う大事な1軍のマウンドで、いわば「調整」といえる登板はさせない。投手には試合の中でしか作れない「肩」があるが、優勝争いともなれば、自然と力が入る可能性もある。もし打ち込まれて大敗すれば、「優勝争いで調整させている場合ではない」との批判が噴出してもおかしくなかった。

 
 中継ぎで調整しようとすると、いつ、どのタイミングでマウンドに立つのかはっきりしない。2軍での調整となると、1軍を離れての移動で疲労させるうえ、「打者・大谷」という切り札を使えない。栗山監督は、あらゆることを勘案して決断したはずだ。

 前回のコラムでも書いたが、短期決戦のCSや日本シリーズを考えた場合、大谷は投手として絶対に欠かせない存在である。そのためには、9月上旬に投げておくことが絶対条件だった。もう一度、50~60球投げられれば、次は先発として十分に役割を果たせる状態になるだろう。

 打者では、ヤクルトの山田哲人が史上初となる2年連続のトリプルスリーの条件を満たした。規格外というか、常識では考えられなかったような選手が出てきている。今回の大谷の「ぶっつけ1軍マウンド」も、野球界の従来の発想では出てこなかった起用かもしれない。指導者は選手に無理を強いるわけにはいかないが、同時に、選手の才能に限界を設けてもいけない。改めてそう感じたよ。

週刊朝日 2016年9月23日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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