放送作家でコラムニストの山田美保子氏が楽屋の流行(はや)りモノを紹介する。今回は、「一口サイズのおいなりさん」について。
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本番中、ADさんや番組デスクが出演者らに差し出す紙コップ入りの飲み物には、必ずストローが刺さっている。
それは、女性出演者の口紅がとれてしまわないための配慮。
同じく、楽屋見舞いの差し入れや、出演者がスタンバイのために控えている「前室」に置かれる、ちょっとした食べ物は「一口サイズ」であることが鉄則である。
まい泉のかつサンドや赤トンボのサンドウヰッチ、地雷也の天むすなど、これまでにも一口で食べられるモノをご紹介してきたが、今回は、7月9日に東京・南麻布にオープンしたばかりの「呼(こ)じろう」のおいなりさん。女医の西川史子先生はじめ、グルメで有名なタレントたちが利用していることで、いっきに流行りモノとなった。
この名前にピンときた方は食通であり、芸能通だろう。西麻布の「呼(こ)きつね」から店主が独立し、開いた店。
店主の徳永明広さんは「元役者」とのことで、例の「口紅をつけた女優さんでも気にせずに食べられる」という楽屋見舞いの鉄則を身をもって感じてこられたのだろう。
おいなりさんは歌舞伎をはじめとする観劇のお供に相応(ふさわ)しいということで庶民に広まったとも言われる。
こだわりの揚げは、店主の故郷に近いという熊本県南関町の「南関揚げ」。この揚げで俵形の酢飯をくるむまでは他のおいなりさんと同じだが、ごま、胡桃、季節によって、ゆず、明太子、さらには数の子など具材が替わる。その工夫も人気の秘密だろう。
いまフェイスブックなどで「『平成28年熊本地震』で外食産業が出来ることを勝手に応援しよう!」という、「食べて支援」が盛んだが、熊本の南関揚げを使用する「呼じろう」のおいなりさんも、その部類。
件(くだん)の西川先生は、今年5月、急性胃腸炎でレギュラー番組やゲストとして出演予定だった番組を欠席した際、お詫びとして「呼じろう」のおいなりさんを関係者に配った。
お店は新しいし、話のタネにはなるし、被災地支援にもつながる。しかも高級感もある、上品な味。親戚や家族が集まる席に用意したら株が上がること間違いなしだ。
※週刊朝日 2016年9月2日号