青森県大間でのマグロ漁の最盛期と宴会シーズンが重なる師走は、1年でもっとも相場が高く、1本何百万円という値がつくこともザラだ。
では今年の1月5日はどうだったか。
競り場にいた昔の仲間に聞いたところ、最高値のマグロ(212キロ)はひと声10万円からはじまった。この時点で早くも2120万円。国産高級車が余裕で買える。
参加したのは仲卸数社と、初荷常連のすしざんまいやベルク、イオンといったスーパー勢も合わせ4、5社。それだけの業者が2千万円以上の資金を用意し、競りに挑んだ。通常は100円単位で刻んでいくが、このときの競りは1万円単位で値段が上がった。
つまり、競合相手より高い値段を出すには212万円(212×1万円)がいる。指一本を動かして値段を上げるということは212万円を積み上げることを意味する。もはや震えて指など動かせない世界。最後は仲卸の山治とやま幸が残り、キロあたり17万円でやま幸が競り落とした。わずか1分弱の競りで3600万円が荷受に渡ることになった。
「一番マグロ」
初荷で最高値をつけたマグロにそんな名がついたのは、いつからだろう。私の記憶では2010年、大間産を1キロあたり7万円、合計1628万円でやま幸が競り落とし、桁がひとつ上がったあたりで報道されるようになった。
一番マグロを巡る戦いはその後、すしざんまいが参入したことでがぜん熱を帯びる。12年にそれまでの最高価格を大幅に更新する5649万円をたたき出したのだ。この競りにも私は立ち会っていたが、正直、桁がまったくわからず、あとで電卓をたたいてあぜんとしたことを覚えている。
すしざんまいは初荷で大々的なPRを展開し、「お寿司といえば、すしざんまい」のキャッチコピーはあっという間に定着した。
過熱する戦いは13年、1億5540万円でいよいよ頂点に達する。初荷価格の異常なまでの高騰を受け、産地は冬の危険な海でも出航するようになり、消費者にマグロ=超高級品というイメージを強烈に植えつけるなど、マグロを取り巻く世界はおかしくなった。デフレを象徴する安価の価格破壊とは真逆の価値観の破壊がはじまった。