豊洲市場の初競りで史上最高値となる3億3360万円で競り落とされた大間のマグロ=2019年1月。
豊洲市場の初競りで史上最高値となる3億3360万円で競り落とされた大間のマグロ=2019年1月。
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 税抜き3604万円。これは東京・豊洲市場の初荷における今年のマグロの最高値だ。口に入れればなくなる「消えもの」に3千万円以上を費やすのは夢か、狂気か。かつて築地市場の仲卸で勤務したライターがリポートする。

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 そもそもマグロの競りがテレビで全国に広く放送されるのは初荷のときだけだ。マグロの周囲に群がる帽子をかぶった男たちは、いったい何をしているのかと、疑問に思った人も多いだろう。

 筆者は東京・豊洲へ市場が移転する約1年前まで、築地市場でマグロの競りに参加していた。その私でさえ、遠くから撮影された、音声がない映像ではそのやりとりは理解できない。競りの何たるかを知らない方が驚異的な価格に目を奪われるのは無理もない。

 豊洲市場には全国各地から魚を集めてくる荷受(大卸)と、そこから魚を買い、小売店と売買する仲卸がいる。仲卸には競りに参加する権利が与えられており、スーパーのバイヤーなども、市場を管轄する東京都から認められれば、競りに参加できる。

 仲卸はいわゆる目利き勝負だ。日本に限らず、世界中の海で漁獲された魚から、高品質かつ得意先の小売店に合う値段のものを探す。マグロでいえば産地や漁法といった基本的な情報のほかに、重要なのはマグロの尾だ。

 尾の断面から脂のりや鮮度、赤身の状態など魚の中身を想像し、どれほどの価値かを見極め、いくらで買うかをあらかじめ決める。これを下付けと呼ぶ。

 私も毎朝4時30分から約1時間、マグロの尾とにらめっこしていた。いい魚はすぐに見つかる。だがそれは、みんなが買いたがる魚でもある。零細の仲卸は、他が手を出さない魚から、いかに品質と値段の釣り合う魚を探すかにかかっている。「掘り出しもの」を見つけられるか否か。そこが難しく、また腕の見せどころでもある。

 マグロの競りは普段、午前5時30分に荷受5社が一斉に鐘を鳴らし、同時に始まる。

 荷受の競り人はマグロにつけられた番号を掛け声で合図し、仲卸ら業者は黙って1キロ単位の購入価格を指で示す。競り人はそれを読み上げ、高く購入する業者を募る。そうして価格を競わせ、最後まで残った最高値を提示できた業者が購入する権利を得る。だから進行する競り人の声が入っていないと、競りはまったく理解できない。

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