冷凍マグロの初競り準備で解凍された尾びれの付け根。品定めのために魚体の上に並べられる=2018年1月、築地市場で
冷凍マグロの初競り準備で解凍された尾びれの付け根。品定めのために魚体の上に並べられる=2018年1月、築地市場で

■コロナから復活 込められた意味

 くしくも前年から第2次安倍政権の量的金融緩和政策「アベノミクス」がスタート。長らく低空飛行が続いていた日経平均株価が上昇基調に転じてゆく。1本で億を超えるマグロは景気浮上の象徴であると同時に、格差の象徴にもなっていった。

 一番マグロを巡る騒動はその後、いったん沈静化したものの、豊洲市場が開場して最初の初荷となった19年、3億3360万円という宝くじの1等当選金レベルの価格をはじき出した。魚の購入代金は、競り落とした日から原則10日以内に支払う。私がかつて勤めていた零細仲卸は、その1千分の1の支払いすらままならなかった。

 翌年、飲食店業界はコロナ禍で大打撃を受けた。コロナ禍からの復活。これが今年の「3604万円」に込められた表向きの意味だろう。

 一番マグロを巡る狂騒曲を振り返ると、13年の価格上昇などは株価の上昇局面と連動していた。今年はコロナ禍からの復活など、景気動向の象徴かのように報じられ、コロナでダメージを受けたものの業界内はさぞ、復活の兆しを見せていると錯覚を起こしがちだが、それは違う。

 もちろん、一番マグロの常連すしざんまいをはじめとする寿司チェーンや、豊洲仲卸で唯一すしざんまいに対抗できるやま幸や、今年の競りで最後までやま幸と争った山治のような大手仲卸は、苦しい面を抱えながらも順調な商いを続けている。しかし、それらはほんの一握りにすぎない。

 格差問題は市場内にもある。高いマグロをバンバン競り落とす大手業者と、思うように魚が買えない零細仲卸との差は深刻だ。

 それは町の飲食店をみてもわかる。大手や高級店と取引する体力がない零細仲卸は、町の魚屋や寿司店がお得意様だ。コロナ以前から規模で劣る小売店は大手チェーンに負け、姿を消しつつあった。私自身、古くから町に根差していた魚屋や、確かな腕をもつ小料理屋がかつてのにぎわいを取り戻せないまま消えゆくさまを目の当たりにしてきた。私がいた仲卸の店もマグロを買っても売り切れずに安く売らざるを得ず、じわじわと利益を出せなくなった。

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