西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、子どもたちの“野球離れ”の実情を明かしながら、打開の糸口が東京五輪であると力説する。
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国際オリンピック委員会(IOC)の総会で、野球・ソフトボールが2020年東京五輪で復活することが決まった。野球界OBとして、こんなにうれしいことはない。今年1月のヤフオクドームで催した名球会イベントにソフトボールの女子選手も参加してくれるなど、野球とソフトがそろって復活を目指してきただけに、喜びも倍増だよね。
同時に責任も感じてくる。ファンも野球に注目してくれるだろう。自国開催の五輪だけに金メダルを期待される。
どうやって大会を盛り上げていくかも大事だ。大リーガーの参加があるかどうか。最終的に「不参加」となったとしても、その過程でどれだけ働きかけをしたかに厳しい目が注がれる。日本代表の監督の人選でも、国民が納得する人物を選ぶ必要があろう。誰もが万事納得する形で進めていくには、時間と労力がかかるよ。プロもアマも、野球界に携わる者すべてが、真剣に議論していく必要がある。
五輪のステータスは、正直言ってワールド・ベースボール・クラシック(WBC)とは比較にならないほど上だ。これまでいかにWBCが盛り上がったといえども、野球をある程度知っている人たちが中心だった。五輪は違う。金メダルをかけた決勝戦ともなれば、野球を知らない人たちも注目する。
いちばん影響があると思われるのが、少年少女だ。五輪の大舞台で、野球界が一体となって戦う様子、歓喜の涙を流す姿を見て「野球ってすごい、面白い」と思ってもらえる可能性がある。
私は世田谷西リトルシニア(東京)の名誉会長をしているが、少年少女の野球離れの現実を見聞きすることが多い。世田谷西は7月末から8月上旬に行われた第44回リトルシニア日本選手権に出場した強豪だが、近隣では、選手が減ってチームがなくなったり、一部の親に練習場までの送迎の負担がかかったり、グラウンドがないためにゲーム形式の練習ができなかったり……などなど。
だからこそ、五輪で野球というスポーツのよさを伝えることが必要だと強く感じている。大人が野球をやらせるのではなく、子どもからやりたいと思える環境をつくりたい。プロ・アマが一体となって野球振興・普及活動に取り組んでもらいたい。
その活動にプロ野球界のOBの力が必要であるなら、全員が協力するべきだ。一人ひとりの力は小さくても、これまでプロ野球界に籍を置いた人間は大勢いる。全員の力を結集すれば、大きなうねりを起こせるはずだ。
野球は少々ルールが複雑だから、未就学児や小学校低学年児は別のスポーツを選ぶことも多いだろう。幼児教室のチラシに、水泳や体操が圧倒的に多いのもうなずけるよ。「五輪復活」を機に、いろいろな改革案を出し、それを遂行していく必要がある。
※週刊朝日 2016年8月19日号
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