
マンション管理士でマンション総合コンサルティング代表の廣田信子さんは「高齢者を狙ってリースバックの方式を悪用し、カモにする業者がある」と話す。なかには詐欺まがいの手口もあるという。
「私が話を聞いたある高齢女性は、年金生活で住んでいるマンションの修繕積立金が値上げされたらどうしようという不安を感じていました。そんなとき、リースバックの広告が目に入り連絡を入れたら、営業が熱心にやってきました」
■クーリングオフは適用されない
「このマンションには大規模修繕の予定がある」とか、「売却すればまとまった現金を手にできる」といった安心させる話を強調され、この高齢女性は仮契約を結んだ。ところが……。
「マンションの売却を決めたと管理組合に伝えたところ、当面は修繕積立金の値上げの予定はないとわかった。また売却価格も市価の半分以下と安すぎることもわかったのです。すんでのところで本契約は阻止できましたが、高齢者につけこむ業者があることは確かです」(廣田さん)
解約できたこの事例に対して、冒頭の82歳の女性が泣き寝入りせざるをえなかったのには理由がある。
一般的な訪問販売の場合、一定期間内の無条件解約を定めたクーリングオフ制度があるが、消費者が所有する自宅やマンションを不動産業者に売却する契約にはクーリングオフが適用されないのだ。そのため、いったん結んだ契約を解除するには高額な違約金が必要になることもあるという。
リースバックを事業化している企業は増え続け、仲介を含めれば現状で100社を超えるとされる。一方で国民生活センターは、2年前から「高齢者の自宅の売却トラブルに注意」と発表している。
このうち、リースバックに関する相談の3分の2以上は60代以上の高齢者からという。その相談件数は2016年度の571件からジリジリと上昇し、20年度は611件、21年度は668件になっている。
「リースバック110番」で相談を受けている佐藤淳弁護士は「高齢者には老後資金の不安があるにもかかわらず、金融の手が差し伸べられにくく、これまでは持ち家を売却するしか道がなかった。リースバックは持ち家を活用してお金を得る手段ではありますが、制度の性格上、買い取り額は相場よりは安く、その後の賃貸料も相場より高くなるのは仕方がない。契約の内容と、売却額や賃料が自分に適しているか、内容を理解して判断する必要がある」と注意を促している。