小池氏は選挙中の7月22日に築地市場を訪れ、
「安全性の確認、そしてまた実際に使い勝手の問題、移転する方がたにご納得いただくためには、ここは一歩立ち止まるべきだと思っております」
「話し合いをずっと重ねてきた上での合意形成というけれど、いまだにその合意形成が本物かどうかは疑わしい」
と、移転延期派に理解を示す演説を行った。移転日を延期するかどうかは明言しなかったものの、知事として何らかのアクションに出る意欲はあるようだ。市場移転に反対してきた東京中央市場労働組合の中澤誠執行委員長がこう語る。
「11月に移転が迫るというのに、いまだに業者には市場内の物流計画も新施設の使用料も示されず、交通アクセスの貧弱さへの対策もないまま。このまま移転を決行したら、荷下ろしが間に合わないなどの混乱が起き、物流がストップする恐れがあります。移転中止を決めることは簡単ではないが、移転延期は都知事が決断さえすれば可能なはず。一刻も早く決断してほしい」
移転予定日は11月だが、農林水産大臣への新市場の認可の申請はそれ以前に行う必要があり、残された時間は多くはない。築地市場問題は、新知事の問題解決能力が問われる最初の関門となりそうだ。
さて、東京都には他にも待機児童問題や膨れ上がる東京五輪開催経費への対応など課題が山積している。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、介護施設が足りなくなる「2025年問題」も五輪後に待ち受ける。こうした問題に知事一人で対処することは困難。そこで重要なのが、司令塔や自分の手足となる“ブレーン”の存在である。前出の佐々木教授がこう語る。
「官僚に対して強権的だった石原都政が長く続いた影響で都庁職員の多くはイエスマン型となり、自ら政策を立案できるスタッフはあまりいない。外部の専門家を集めた有識者懇談会をテーマごとに設置するなど、ブレーン組織を形成する工夫が必要となるでしょう。小池氏は今は自民党と対立していたとしても、人材は与党系、野党系問わず各界から広く集めたほうがいい」
今回の都知事選出馬の経緯でも自民党と敵対するなど、政界に敵の多そうな小池氏。まずは味方を増やすことが当面の課題と言えそうだ。都政に新風を吹かすことができるのか。はたまた、「ブラックボックス」の闇へと吸い込まれるのか。本当の戦いはこれからだ。
※週刊朝日 2016年8月12日号