『一流患者と三流患者』(朝日新書)が話題になっている。病気になれば、最良の医療に最短でたどり着きたいものだが、医師から最高の医療を引き出せる一流と、三流の違いは何なのか。そもそも医師は、患者をどのように見ているのだろうか。
まずは、こんな問題ケースから紹介しよう。
「診察で先生から受けた説明ですが、そのまま文章にして、メールでください」
女性患者からそんな“お願い”をされたのは、心臓外科医で、昭和大学横浜市北部病院循環器センター教授の南淵明宏医師。数年前のできごとだが、忘れられないという。
患者は、心臓の弁に異常があり、緊迫した状態。そう病状を説明すると、病気になったのは医師のせいとばかり、攻撃的な態度をとりはじめた。揚げ句の果て、診療の最後に口にしたのが、この要求だった。
「私たち医師は、患者さんには誠実でありたいという思いで接しています。ですが、自分は被害者で医者はそれを治すのが当然と、反抗的な態度をとる患者さんもいる。そういう方は、どんな医師も関わりたくないと思うでしょうね」
南淵医師はその夜、病気や手術について事細かく説明した文章を書き、患者にメールした。そして最後はこう締めくくった。“別の病院におかかりください。お願いします”。それ以降、患者からの連絡はない。
医師も人間だ。一肌脱ぎたいと思う患者もいれば、親身になれない患者もいる。医師の能力や技術力とは別の“プラスα”を引き出したければ、前者の“愛される患者”を目指したほうが得策で、医師の気持ちが遠のくような患者にはならないほうがいい。
『患者力 弱気な患者は、命を縮める』(中公文庫)などの著書もある南淵医師のもとには、全国各地から患者が訪れる。
「心臓手術は、患者さんにとっても大きな決断です。ですから、病気について調べてくるし、治療法についても熱心です。けれども時々、勘違いしている患者さんもいますね」
自身もがんに罹患し、治療の経験がある上野直人医師。同医師が勤務するのは、米国で最も先進的ながん医療を行っている、テキサス大学のMDアンダーソンがんセンターだ。がんの薬物療法などを行う腫瘍内科医の上野医師は、「アメリカでも、『患者の質』に格差がある」と指摘する。
「日本で多い“医師にすべてお任せ”という患者さんは、米国にも結構います。“限られた人生、医者の言いなりでいいのだろうか”と考えてしまいます」
ただ、“お任せ患者”はまだ救いがあるという。