先日亡くなった演出家の蜷川幸雄さんは、2006年、オーディションを勝ち抜いた満55歳以上の48人とともに「さいたまゴールド・シアター」をスタートさせた。高齢者だけの劇団は海外からの注目度も高く、パリ、香港公演も成功させた。生前聞いた、設立から10年を迎えた劇団(以下、ゴールド)への思いをお届けする。
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あるときから、芝居をしたことのない高齢者がすごく気になるようになりました。僕は、戦中戦後を生きたおやじやおふくろの姿を見て育った。「シェークスピアだ」「海外公演だ」なんて言ったって、おやじやおふくろみたいな人たちに偉そうな顔はしたくないし、この人たちがわかるもの、楽しめるものをつくるのが本当じゃないか、という思いがあったんです。
ゴールドの役者たちはプロじゃないので、演技はできない。稽古はたいへんです。けんかはするし、わがままだし、自分勝手だし。カーテンコールのときに毎回、真ん中に出てくる人がいて、「みんなが真ん中に立てるように入れ替われ!」って僕が怒鳴ったりするんですよ。こういうことはプロの俳優では考えられないことです。プロの俳優はキャリアを積むなかで、自分の位置を決めちゃうもの。「自分はわき役だ」とか「主役よりは一歩下がっていなくちゃ」とかね。でも、ゴールドの人にはそれがない。意思表示がすごいんです。プロの俳優にはない自由さ、遠慮のなさ、そしてあきらめないところが魅力です。