熊本地震は、水俣病発生地の県南部の水俣市にも深刻な影響を与えていた。老朽化した護岸が壊れ、大きな余震が来れば、公害病の原因となった有機水銀が再び海へ流れ出すリスクが増していたのだ。同じ悲劇を繰り返してはならない。ジャーナリストの桐島瞬氏がその実態に迫る。
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震度7の熊本地震が発生した数日後、水俣市の職員が水俣湾と化学メーカーのチッソ(現JNC)の廃棄場などに接する市道の護岸を調べると、2カ所で裂け目ができるようにコンクリートが剥がれ落ちていた。
近所の住民がこう言う。
「広大な廃棄場には、水銀などいろんな有害化学物質が埋まっています。大きな余震が来てこれらの物質が溢れ出すようなことが起きれば、周辺の住宅地は大変なことになる。水銀が再び水俣湾へ流れ出したらそれこそ大問題です」
問題の幅2~7メートル、長さ1キロほどの市道を歩くと、地震で壊れた2カ所以外にも路面のコンクリートに亀裂が走り、高さ4メートルほどの護岸のあちこちには裂け目ができていた。その数は60カ所を超える。亀裂が深まれば、廃棄場の水銀などが海へ漏れ出す可能性もある。
廃棄場の広さは、東京ドーム12個分。ここは八幡(はちまん)残渣プールと呼ばれ、チッソが過去に工場から出たカーバイド(炭化カルシウム)の残渣を流していた場所だ。チッソは、アセトアルデヒド製造工程で副生されたメチル水銀化合物もこのカーバイド残渣プールなどを通じて海へ流したことが原因で公害病「水俣病」を引き起こした。