水俣病はメチル水銀が蓄積された魚を食べることで脳の神経細胞などが侵される病気で、1950年代中盤から水俣市やその周辺で、激しくけいれんを起こしたり視野が狭くなったりする患者が増え始めた。発症後わずか3カ月で死亡した患者は16人に上り、死亡率は最高で44%に達した。

 現在までに認定患者は2280人に上る。国が68年に、水俣病の原因はチッソが水俣湾に垂れ流したメチル水銀化合物だと特定した後にも、損害賠償を巡り、住民から多くの裁判が提訴された。チッソは原因が認定されるまで水銀を海に排出し続け、その量は400トンを超えるとみられている。

 湾内の水銀汚染をなくすために本県は77年から14年間かけて、海底にたまった水銀ヘドロをすくい取り、その泥で埋め立て地を造る浚渫(しゅんせつ)工事を実施した。

 県の検査では、現在は水俣湾の魚や底質の水銀濃度は規制値以下に下がっている。だが大地震や津波が来れば、残渣プールを水俣湾と隔てる「防波堤」となっている市道が壊れ、水銀が再び海へ漏れ出すリスクを抱えているのだ。

 水俣市などによると、この市道はチッソが私道として所有していたものを2002年に市に寄贈したもの。管理責任を負う市は熊本地震前から市道の亀裂を確認し、修繕の必要性を認めていた。だが、費用捻出の面から対策はなかなか進まず、地震が来てしまった。

「昨年度と一昨年度にボーリング調査などをしたところ、老朽化で損傷もあるため改築が望ましいとの結果が出ています。沖合80メートルほどまで埋め立てて護岸を強化する検討をしていますが、なにせ費用がかかる。県や国の支援を受けないと、市単独ではできません」(水俣市)

 残渣プールのブロック塀の隙間などからはいまでも大量のカーバイド水が噴き出し、路面や側溝を白く染めている。強アルカリ性といわれるこの水が海へ流れ出すだけでも環境への影響が心配になるが、もし水銀が含まれていたら大変だ。残渣プールの地下5メートルほどには地下水が流れているため、そこから水銀が海へ流出するリスクもある。

 チッソに八幡残渣プールの汚染について質問したが、回答はそっけなかった。

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