作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。安倍晋三首相の熱心な応援団の一人から話を聞いた北原氏は、心から納得したことがあったという。
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安倍さんの熱心な応援団の一人でもある長谷川三千子さんが田中美津さん、想田和弘さんとそれぞれ対論するトークイベントに行った。いったい、どんな考えで安倍さんを支持しているのか? 女に対しては保守的で厳しい発言が多い長谷川さんは、ウーマンリブの美津さんと何を語るのか?
長谷川さんは子供の頃、動物学者になりたかったのだそうだ。だからなのか、美津さんが男と女の権力関係を語ろうとしても、長谷川さんはそれをすぐに動物の話に置きかえてしまうのだった。
例えば仕事盛りだった時期に子育てに時間を奪われ、非常に悔しい思いをされた経験をもとに、「人間も動物と地続きだって気がついた」と仰っていた。「ほ乳類は子育てにおいて、メスのほうがハンディキャップを負う種なのだ」と。長谷川さんによれば、基本的に動物は、遺伝子に子育て能力がインプットされているという。だけど人工保育されたゴリラやチンパンジーは子育てができなくなる。同じように人間のメスたちは、文化や時代環境などで、動物としての宿命を失っているという。
衝撃だった。長谷川さんをはじめ、保守的な方々はよく「今の女はワガママだ」みたいな論を張りたがる。女性活用をうたう安倍政権も、保育園に子供を預けられない女たちの声を真摯に聞いているとは思えない。「3歳までは家で子育て」と安倍さんはかつて言っていたが、それが本音ではないか。そしてそれがまるで「古き良き日本の伝統的母親のあり方」のように言われがちだ。でも、長谷川さんの話を聞く限り、保守派が目指すところは「昭和」ではなく野生のゴリラだ。
ゴリラに衝撃を受ける間もなく、今度は想田和弘さんと憲法についての対論がはじまった。想田さんは自民党の憲法改正草案が、いかに民主主義の観点から危険なものであるかと話した。長谷川さんは、安倍政権的観点から、安倍政権批判をする人たちの民主主義が嫌い、という話をした。曰く「王様と闘って勝ち取るのが民主主義という認識がある。それが、いやなの」と。
その認識は、全く正しいと私も思う。問題は、長谷川さんが「倒される側」に立って民主主義を語ることだった。ゴリラなのに!
ただ、私は長谷川さんの話に、心から納得したのだ。安倍政権が「倒される側」に立って王として政治をしていると思えば、非常にわかりやすい。そしてエロ好きでゴリラ化された人間と思えば、不気味だけどそれほど怖くはないようにも思う。そう、私たちは人間として、声をあげ続けるしかない。
※週刊朝日 2016年4月22日号