メイズ/ペスカラ1986
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久しぶりに叫ばせてもらいましょう「マイルスを聴け!」と
Maze-Pescara 1986 (Cool Jazz)

 このジャケットをみて、「ああ、あの」と思った人は、相当のマイルス者とお見受けします。そう、あのLFYE盤『メイズ』が苦節何十年かを経て、遂にここに初めて「ちゃんとした状態」で登場とあいなったしだいなのです。

 話せば長い。しかし話さなければ伝わらない。そこで可能な限りショートカットでお話しします、このときのライヴは長く前述の『メイズ』に収録されていた。しかし『メイズ』というCDは、そもそもモントルー・ジャズ・フェスティヴァルの音源を主体に構成され、まったく別の日のイタリアでのライヴは付け足しにすぎなかった(詳細は拙著『マイルスを聴け!』P830をご覧ください)。

 これはどういうことかといえば、モントルーは例の巨大なボックス・セットで揃えるとしても、その「付け足し」のために、なかなか処分できないことを意味する。つまり大半は不要ながら、わずか数曲のために所持しなければならなかったわけです。それがもう何年もつづき、ほぼあきらめかけていたところに、いや忘れていたところに、今回のこのクール・ジャズ盤の出現というわけです。いやーこれには驚いた。

 これまで5曲しか日の目をみていなかったライヴが、なんと9曲に増えての新装登場というか、ここまでくればもう初登場といったほうが話は通じやすいだろう。しかも音質、バランスともに申し分なく、その鋭いキレをもったサウンドは、この時代のマイルス・バンドを再現するためには、ほぼ理想的なもの。オーディエンス録音だが、迫力並びに臨場感いっぱいのサウンドで、じつにしっかりと録音されている。

 さらに急いでつけ加えておけば、冒頭の《ワン・フォン・コール/ストリート・シーンズ》と《スピーク》の合体曲はフェイドイン状態で始まる。《リンクル》と《ホップスコッチ》はインコンプリートとなっている。その意味では、惜しいかなコンプリート・エディションではない。しかし、1曲目が聴こえてきた瞬間、すべてははるか彼方に消し飛ぶ。それくらい、このマイルス並びにメンバーの演奏は熱く、燃えさかっている。

 この種のライヴ音源は、本来はこうでなければならない。コンプリートかそうでないか。音質はマスター級かそうでないか。メンバーは、収録曲はと、枝葉末節にマイルス人生の生きがいを見出していた自分が恥ずかしくなります。久しぶりに叫ばせてもらいましょう、「マイルスを聴け!」と。

【収録曲一覧】
1 One Phone Call / Street Scenes-Speak
2 Star People
3 Maze
4 Human Nature
5 Wrinkle (incomplete)
6 Splatch
7 Time After Time
8 Portia
9 Hopscotch (incomplete)
(2 cd)

Miles Davis (tp, key) Bob Berg (ss, ts) Robben Ford (elg) Robert Irving (synth) Adam Holzman (synth) Felton Crews (elb) Vincent Wilburn (ds) Steve Thornton (per)
1986/7/27 (Italy)

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