各質問については、自由回答でその理由もたずねた。与党候補を推薦しない理由は、「期待してもダメなことがわかった」「推薦する理由がない」と、突き放した答えが目立つ。一方、「推薦する」の理由の多くは、「与党の農業政策には反対だが、野党のふがいなさにあきれる」といった“消極的推薦”がほとんど。自民党と縁を切りたくても、野党が受け皿になっていない実態が浮き彫りになった。

 東京大学の鈴木宣弘教授(農業経済学)は、アンケート結果をこう分析する。

「TPP交渉では、コメや牛肉・豚肉などの重要5項目の聖域は守ると言ったにもかかわらず、大幅譲歩した。アンケートが示すとおり、政府に対する農家の怒りは、現場に近い人ほど大きく、地域の農協も同じだ」

 そうはいっても、選挙になれば、農協は自民党を応援するのではと思うかもしれない。それも中部地方のJA県中央会幹部によると「簡単なことではない」と話す。

「協同組合は、組合員による民主的な運営が原則。企業とは違い、幹部の方針に組合員が黙って従うわけではない。農協の全国組織が自民党を推薦するよう求めても、地域農協の組合員が反発すれば推薦できない。今の組合員の声は、そうなっても当然なほど厳しい」

 関東選出の民主党の若手議員は、農協の選挙事情についてこう解説する。

「そうはいっても、現実に農協が野党候補だけを推薦することはほとんどないだろう。ただ、農協が与野党両方に推薦を出す、あるいは推薦をまったく出さないという形で野党を支援するケースは増えている」

 アンケートでは、安倍政権が「岩盤規制を打ち破る」と言って標的にしている農協改革にも、多くの不満が寄せられた。秋田県のJAこまち代表理事組合長の井上善蔵さんは、こう話す。

「農協改革ではJAバンクや共済といった『農協マネー』が狙われている。これは国内外の企業や投資家のためのものであることは一目瞭然。農家の所得は増えない。参院選で自民党を推薦することはない」

 新潟県の農協理事は、メディアの報道姿勢にも不満を感じている。

「テレビや新聞で『農業改革の旗手』としてもてはやされていた大規模農業法人が、数年前に倒産した。なのに、その事実はほとんど報道されていない。政府もメディアも、都合のいい事例ばかり紹介している」

 JA秋田ふるさと代表理事組合長の小田嶋契さんは、農家の大規模化一辺倒に偏る農政を批判している。

「農村地域は、大規模農家だけでなく、小規模な農家もいて田んぼの水の管理や生活インフラが保たれる。小規模農家を切り捨てるようなやり方は時代遅れで、欧州のように小規模農家も生き残れる政策が必要だ」(本誌取材班 西岡千史、亀井洋志/上垣喜寛)

週刊朝日 2016年3月11日号より抜粋

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