西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、今季から変わる本塁での衝突を防ぐ新ルールで野球が変わるだろうとこう推測する。
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プロ野球では、今季から本塁での危険な衝突を防ぐ「コリジョン(衝突)ルール」が導入される。米大リーグは2014年に試験的に採り入れ、昨年から本格導入した。日本では1年遅れとなるが、捕手の故障リスクを考えると、反対意見は少ないのではないかな。
分かりやすく言えば、捕手は、本塁ベースを隠す、いわゆる「ブロック」が禁じられる。走者は、捕手への体当たりが禁じられる。ともに悪質な場合は警告や退場処分が下される。アウト、セーフの判定が覆る可能性もあり、微妙な場合はリプレー映像で確認される。本塁上での格闘技的な要素は完全になくなるというわけだ。メディアでも、「好ブロック」といった表現がなくなるだろう。
本塁上のクロスプレーは野球の醍醐味でもある。捕手がベースを隠していても、それをダイビングしながらかいくぐり、体をひねってタッチする。そうした走塁方法はもちろん、捕手が走者に体当たりされても衝撃を和らげる方法なども、必要な技術とされてきた。
しかし、私も現役時代に目の当たりにしたが、体格に勝る外国人選手が全速力でタックルをしてきたら、捕手は恐怖を感じる。捕手を目指す野球少年のためにも、故障のリスクを減らすルール作りは大切だ。
日本では昨年10月に宮崎であったフェニックス・リーグで試験的に導入されたが、規定に抵触するようなプレーはなかったそうだ。守る側にすれば、完全にアウトのタイミングなのに、ブロックしたせいで判定がセーフに覆ってはたまらないからね。
反復練習で体に染みついたブロックという行為を捨てなければいけない捕手は大変だ。捕球してからタッチに向かう機動力が大事になる。新しいレガーズ(すね当て)が開発されるかもしれない。
どこからがダメで、どこまでがOKなのか。キャンプでも現場と審判団のコミュニケーションは多くなるだろうし、シートノックをしながら細かく確認していく必要がある。数年前、統一球の反発係数などが大きな話題になったが、今回の変更に伴う影響も大きい。
審判員の重圧も半端ないよ。外野フェンス際の飛球に関してもビデオ判定は導入されているが、本塁上のプレーに対する重圧はその比ではない。
例えば、同点で迎えた十二回裏2死一塁を想定してみる。次打者の打球がいったんサヨナラ本塁打とされながら、判定が二塁打に覆ったとしても、2死二、三塁となり、サヨナラ勝ちのチャンスは残る。だが、同じ場面で打者が三塁打を放ち、走者が本塁でのクロスプレーとなり、その判定が覆ったとしたら……。サヨナラ勝ちだと思ってベンチが空っぽになって歓喜にわく中で、主審は判定を覆し、引き分けを宣告せねばならない。同じ1点でも、チャンスが残る判定と、一瞬にして好機がつぶれる判定では重みが違う。もちろん、どんな微妙な判定であっても、審判員へのリスペクトは欠かせない。機械じゃないんだから。
※週刊朝日 2016年2月19日号
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