五神:それは、学生をどう育てるかという視点でも重要ですよね。日本のよさや独自性が世界の中でどういう意味を持つかを意識できる学生を育てる。そういう力を強めないと、グローバル化のなかでは埋没してしまいます。たとえば海外に行って自分がマイノリティーになる体験をすると、日本の持っているものをきちんと勉強するようになります。学生を海外に出したり、国内であってもキャンパスの外での体験活動をする教育が重要です。

山極:イギリスやドイツで学んでいる京大の学生に出会うと、とてもよく育っていますよ。びっくりするぐらいね。体に染みついていた日本の文化を超えて違う文化を体に入れると、深みや積極性が出てきます。

五神:3カ月ぐらいのインターンシップでもすごく伸びて帰ってきますよね。新しいことを学ぶだけでなく、自分たちがすでに持っているものについての理解が深まります。

山極:いま国の教育改革が議論されていますが、場当たり的です。この問題はアメリカの大学、この問題はイギリスの大学、とベンチマークをつけてまねようとしています。しかし、たとえばアメリカでは、世界大学ランキングの順位を上げてそれとともに授業料も上げて、評判のいい大学にお金持ちの学生を集めている。フランスやドイツは授業料はタダにして、その分、卒業後に社会に貢献することを義務として負わせる。これらは国がきちんとした教育プランを持っているからです。「こっちはアメリカ、こっちはイギリス、ドイツ」と言っている日本はすごくちぐはぐな気がします。

※MOOC(インターネットを通じ、誰もが無償で大学の講座を受けられる教育サービス。通称ムーク)

週刊朝日 2016年1月29日号より抜粋