そしてその韓国からの留学生、柳準相(リュウジュサン、34)は教育学研究科で博士号を取得中だ。ジャケットを着こなし、黒縁の眼鏡をかけた彼は、なるほど学者の雰囲気を漂わせる。このインタビューで柳だけが日本語での会話を希望した。27歳にして独学で覚えたというその口ぶりからは、かなりの努力家であることが伝わってくる。
「私の専門は韓国近代史です。日本語を学ばないと文献が読めなかった。日本の植民地政策に関心があり、研究したくて日本に来ました。一定世代の韓国人に反日感情があるとは、一律には言えないです。いろんな幅の人がいますから。
私が研究する前の近現代史は、資料に基づいて、日本の植民地政策の不当性を実証的に、どんな差別や被害があったかを調べることが主流でした。過去の資料を基に、実践的な研究をすれば日本の方もよくわかってくれるだろう。これを踏み台として、お互いに理解が深まるんじゃないかなという気持ちがあります」
柳は一つひとつ言葉を選びながら、冷静に話した。
「私が母国で学んだ時代は、韓国史じゃなくて国史という教科名で、政府が支援していました。日本の植民地時代と、それ以前──日清・日露戦争などは、教科書の後半部にありますが、近現代に割く時間は多くないんです」
日本でよく「反日教育」という語が使われるが、深く学ぶ時間などなかったと、柳は主張した。
「また、『反日国家』という言葉ですが、ある特定の国家自体が『反日』と一括りになっていることに、ものすごく違和感を覚えました。反対に『親日国家』というのもおかしいじゃないですか」
そんな彼は、「隣国との関係を考慮した自国の立場」をテーマに、博士論文を書き進めている。
「安保法制の件では、民主的社会の高いレベルを感じました。私としては、平和への高い意識を生かして、アジア地域と仲良くする方向に向かってほしいです」
※週刊朝日 2016年1月1-8日号より抜粋