上野千鶴子(社会学者)うえの・ちづこ/1948年、富山県生まれ。東京大学名誉教授、立命館大学教授、認定NPO法人WAN理事長。日本における女性学・ジェンダー研究のパイオニアで、近年は介護分野に研究領域を拡大(撮影/写真部・加藤夏子)
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上野千鶴子(社会学者)
うえの・ちづこ/1948年、富山県生まれ。東京大学名誉教授、立命館大学教授、認定NPO法人WAN理事長。日本における女性学・ジェンダー研究のパイオニアで、近年は介護分野に研究領域を拡大(撮影/写真部・加藤夏子)
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新田國夫(認知症在宅医)にった・くにお/1944年、岐阜県生まれ。帝京大学病院第一外科・救急救命士センターなどを経て、90年に新田クリニックを開院、在宅医療を開始する。全国在宅療養支援診療所連絡会会長(撮影/写真部・加藤夏子)
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新田國夫(認知症在宅医)
にった・くにお/1944年、岐阜県生まれ。帝京大学病院第一外科・救急救命士センターなどを経て、90年に新田クリニックを開院、在宅医療を開始する。全国在宅療養支援診療所連絡会会長(撮影/写真部・加藤夏子)

 おひとりさまが住み慣れたわが家で最期を迎えるには――。認知症の在宅医療における第一人者・新田國夫さんは、ベストセラー『おひとりさまの老後』の著者で社会学者の上野千鶴子さんとの対談で、認知症患者でも好きな家で最後を迎えられると経験談をこう語る。

*  *  *
 
新田:おひとりさまの認知症患者さんを在宅でみられるかといえば、可能です。看取りもできます。

上野:そうですか! がんの在宅看取りは、今ではどの専門家に取材しても、「大丈夫」と言います。ギリギリまで体も動くし意識もある。今の緩和ケアの技術があれば痛みもコントロールできると。実際、小笠原文雄医師(日本在宅ホスピス協会会長)のクリニックでは、がんに限れば在宅看取り率は95%でした。

新田:当院の場合、正確な数字は出せませんが、最近、がんの終末期で入院された方がいないので、100%に近いと思います。

上野:やはり高いですね。一方で認知症は……。

新田:むずかしいと思いますでしょ? でもそんなことはない。この間も、こんなケースがありました。

上野:どんなケースですか?

新田:一人暮らしの元商社マンで、娘さんが関西のほうに住んでいた方の例です。60代後半で認知症になり、コンビニに行ったきり帰れないという状態が何度も続いたことを、地域の人たちが見ていて発覚しました。施設に入るという選択肢もありましたが、ケアマネジャー(ケアマネ)をつけて、地域を巻き込んで彼をみることにしました。

上野:そこには新田クリニックの全面的なバックアップがあったわけですよね。

新田:もちろん。任意後見人は娘さんではなく、司法書士がなりました。亡くなったのは朝の4時で、看取ったのは、20代の男性ヘルパーでした。僕はそのヘルパーに「そろそろお迎えが近いけれど、一人で大丈夫か」って聞いたら、「任せてほしい」と。きちんと看取ってくれました。

上野:亡くなられたのが早朝。事業所によっては対応してもらえない時間帯ですね。自費でヘルパーを依頼なさったのですか?

新田:はい。後見人の司法書士と僕が話して、残っている財産と必要な費用を比べつつ、使っていきました。娘さんも了解していました。こうした経験を重ねたことにより、認知症でもきちんとしたケアマネがいて、デイサービスとグループホーム、訪問介護があれば、おひとりさまでも大丈夫だと思います。

上野:心強いですね。

新田:そもそも認知症の患者さんって、「何となく病気なのかもしれないけれど、何とかやれる」と思っている人がほとんどなんです。一人暮らしの患者さんでも、意外と大丈夫。むしろ、周囲との関わりの中で生じる不安やいらだちなどの要素のほうが、症状に大きく影響するんです。

週刊朝日 2016年1月1-8日号より抜粋