鎧兜はいくつもの部品で構成されており、一人では着られないほど複雑である。お祭りの当日朝に専門の方に着付けしてもらうが、結構な時間がかかる。そのため行列の途中で全部脱いで厠(かわや)へというわけにいかないのである。いきおい、朝からほとんど食事を取らずに参加することになる。

 このお祭りには大学生のころから毎年参加している。困ったのが大学院修士課程で留学している最中のことである。私は修士課程をカナダの大学で修了した。カナダの大学は日本人にとってアメリカの一流校ほど有名ではないが、学問のレベルは高く競争も激しい。

 アメリカの大学院と同様に履修科目の成績が悪い、もしくは研究成果が出なければ退学となる。特に奨学金を研究室からもらっていれば、実質的に雇用関係になるので企業で働いているのと同等である。実際、研究室の他の学生は日々の研究を“Study”(勉強)と言わず“Work”(仕事)と言っていた。勤めていれば1週間休みを取ってお祭りに参加するなど言語道断である。また中国系カナダ人の指導教授は“SAMURAI”(侍)はなんとなくわかっても、“DAIMYO”(大名)や“TONOSAMA”(殿様)は理解できない。ましてや現代でその位置付けは曖昧である。里帰りぐらいにしか考えてもらえなかった。そこで実行委員会に頼み、正式な依頼状を英文で送ってもらった。後日のことであるが、指導教授が来日した時、お祭りも見学していただいた。実感として、やっと理解していただいたと思う。

 今年のお祭りは成功裏に終わり、夜の慰労会では実行委員会の方々はじめ多くの方がお互いの労をねぎらった。お祭りが終わればすぐ来年に向けて準備が始まる。束の間のひとときである。来年はいよいよ大河ドラマ「真田丸」放送の年である。信繁とともに昌幸、信之も描かれるはずである。信之がいかに誠実かつ冷静な人物であったか、信繁がどのように浪人を使いこなし大坂の陣で武名を馳せたか、フィクションではあっても、その人物像に迫るはずである。親子ともどもドラマを見ながら、来年の行列の役作りの参考にしようと考えている。

週刊朝日 2015年11月6日号