漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏は、「デート~恋とはどんなものかしら~2015夏 秘湯」(フジテレビ系、9月28日21:00~)を絶賛する。

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 東大出の国家公務員の依子29歳(杏)と、自称・高等遊民のニート巧35歳(長谷川博己)。この恋愛不適合者の二人が織りなす、ままならぬ恋物語。2015年1~3月期に放送された連続ドラマのSP版だ。

 冷静かつ合理的な依子の精一杯可愛いキメ顔=あひる口は、ほぼホラー。非生産的な巧が必死で踊りまくるフラッシュモブ(雑踏の中の人々が実はダンサーで、いきなり踊り出すパフォーマンス)プロポースは、見ているこちらが身もだえするほどの恥ずかしさ。

 恋愛ドラマの代名詞的「月9」という枠なのに、クリスマス、大晦日カウントダウン、バレンタインというラブラブイベント幻想を、ことごとく打ち砕いた見事な「月9殺し」っぷり。恋愛ドラマを論理的に解体して構築しなおし、けっこういい年した男女のみっともなさも、必死さも浮き彫りにしたら、ちゃんと恋物語になってました……という傑作なのだ。

 今回のSPも、変わらぬ理詰めっぷり。ただ見つめ合ったり、なんとなくどうでもいいこと語り合ったりする、いわゆる恋愛ドラマの余白部分は、ほとんど無い。そこを埋め尽くしているのは、すみずみまで張りめぐらされたネタフリと、オチの回収だ。

 
 ドタバタな浮気騒動を解決して、星を眺めながら二人きり。ついに素直な気持ちがこぼれ出す。「月が綺麗ですね」と、つぶやく巧。夏目漱石は、かつて授業で「アイラブユー」を「月が綺麗ですね」と意訳したと、語る巧。そう、放映日はちょうどスーパームーン。いつもよりひときわ月が大きく見える日。思わず、窓から月を振り仰いでしまう、綺麗なネタフリとオチ。

「君がほしいです。隅々までほしいです」と、いざ二人のラブシーンが始まるか?という瞬間は、放映時間で23時すぎ。冒頭で、二人が交わしていた結婚契約書の条項が、頭をよぎる。「23時から性交渉、ピロートークは15分」。契約通りだよ!てなネタフリとオチ(残念ながら、性交渉は未遂で終わりましたが)。

 少しずつゆっくりと恋というものを知っていく二人。今後も、結婚式、新婚旅行、出産、子育てと、ネタフリ&オチ回収できるエピソードが目白押しだ。SPタイトルが「2015夏 秘湯」と、「北の国から」狙い(?)だけに、ぜひシリーズ化をお願いしたい。

週刊朝日 2015年10月16日号