
当時の場所に現存する“文豪の家”は、全国的にも珍しい。
旧制五高教師として熊本に赴任した夏目漱石。英国留学前の4年余りを過ごした熊本で、最後に住んだのが、「第6旧居」だ。
築100年以上。4年前に空き家になり、急速に老朽化が進む。昨年、所有者は手放すことを決めた。所有者の親族、磯谷民子さん(75)は「個人で維持するのは限界」と漏らす。今は保存先を探しているという。
一方、太宰治が暮らした東京都杉並区の「碧雲荘(へきうんそう)」は、名作『人間失格』の原形となった作品を執筆した場所とも言われる。
昭和初期、所有者の田中利枝子さんの祖父が建てた。だが相続が難しく、来春、敷地は区に引き渡される予定だ。
「今のままでは、家屋は取り壊すしかありません」(田中さん)
いずれの家も、地元では保存や移築を模索する。佇めば、文豪の息遣いを感じる家。失われてゆくのは、あまりに寂しい。
※週刊朝日 2015年6月19日号