♪腕を前から上にあげて、大きく背伸びの運動から──。「ラジオ体操」は、手軽な割に高い運動効果が解明され始め、根強い人気を誇る。
働き盛りにとってつらい慢性的な不調や疲労の解消にも力を発揮する。仕事にもいい影響が出たという事例がある。
「売り上げが伸び悩んでいるんです」
関東地方で活動する男性コンサルタントは、30代の中古車会社社長から、そんな相談を持ちかけられたとき、問題点は日々の業務ではなく、社長自身の健康状態にあると考えた。多忙で毎食コンビニ弁当。仕事は深夜に及ぶので朝の出勤は遅れがちになり、社員との意思疎通が難しくなっている。そうした悪循環に陥っているという仮説を立ててみた。
「コンビニ弁当をやめて、ラジオ体操をするようアドバイスした。食生活を改めるのと同時に、早起きと運動を習慣化するのが目的でした」
生活を見直した社長から、「肩や腰の痛みが楽になり、よく眠れるようになった」と笑顔が見られるようになった。そして業績アップのためにすべきことは何かと、前向きな発言を口にするようになった。男性コンサルタントが言う。
「運動する時間や場所がない人にとって、ラジオ体操は非常にハードルが低いんです。小さな一歩が心身を元気にして、その結果、仕事にもいい影響をもたらすんですね」
集団行動が苦手な“一匹オオカミ派”にも、ラジオ体操は打ってつけといえそうだ。
現役時代、大手ゼネコンに勤めていた熊谷英樹さん(72)は、57歳で関連会社に出向する際、第二の人生を充実させて楽しく過ごすために健康維持を心がけることを決めた。そこで第一に選択したのがラジオ体操。
「毎朝早起きすればリタイア後も規則正しい生活が続けられ、真剣にやると汗ばむし、とてもいい運動になる。何と言ってもお金がかからないのがうれしいですね(笑)」
子どもが独立して使わなくなった部屋を「ラジオ体操専用部屋」に充てて、毎朝テレビ放送を見ながら実践している。病気知らずで、足腰もピンピンしているのは「間違いなくラジオ体操のおかげ」とその絶大な効果を信じて疑わない。この春、東京から故郷の札幌に居を移し、懐かしい友と集うのが楽しみだが、新居でも専用部屋はバッチリ確保したという。
最近はスマートフォンのアプリやインターネットでラジオ体操の動画をいつでもどこでも見ることができ、手軽さに拍車がかかる。
※週刊朝日 2015年5月29日号より抜粋