フットプリンツ・ライヴ・リマスター
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遂に登場した人気アイテムの完全マスター・ヴァージョン
Footprints Live Remaster (One And One)

 先週だったでしょうか、マイルスの新音源は出ているが超ド級は極端に少なくなったと嘆いたところ、出ました、またしてもフィルモアがらみの特大のブツが。そうこのライヴはすでにマイルス者の間で絶大な人気を誇っていたが、贅沢をいえば、音質面が100点満点でいえば80点台にとどまっていた。今回登場の新音源は、おそらく別ソースから再構成されたマスター・ヴァージョン。これでこの日のフィルモア・ライヴもまた完全無欠のコンプリート化が実現した。そうなのだ、マイルス史上最高傑作ライヴがひしめきあうフィルモア・ライヴは、こうして地道に中小企業がコンプリート化を推進していけばいいのです。それで、次は「木曜マイルス」ですよね。

 以下の原稿は拙著『聴けV8』を改訂したものであることをお断りしておきます。だって内容が同じライヴですから、ちがうことが書けないんです。いやそれよりなにより筆者としては『聴け』掲載原稿が決定版だと思っているので、その抜粋こそ意義ある行為だと思っています。

 さあ今夜のマイルス・バンドは『ブラック・ビューティー』より100倍は快調だ。1曲目が《ディレクションズ》でなく《イッツ・アバウト・ザット・タイム》であるところも珍しい。あとはもう疾風怒濤の展開だが、今夜はどこまでいっても破綻することなく、チック・コリアのフリー・ジャズ大会も最小限に抑えられている。《ディレクションズ》ではスティーヴ・グロスマンがテナーを吹く。

 3曲目から5曲目にかけてのマイルスが、じつにいい。これは完全に5曲メドレーと考えていいが、注目すべきはマイルスが瞬時に次のテーマ・メロディーを吹き、どんどん編集の手を加えていっていること。つまり本来ならテオ・マセロがスタジオでやることをライヴでやっているのだ。この事実は、『アット・フィルモア』にせよ『ライヴ・イヴィル』にせよ、テオのテープ編集によって構成されたライヴ盤が意外や想像しているほど複雑なものではない可能性があることを物語る。だってこの5曲メドレーを聴けば、マイルスが現場で完璧に編集していることがわかるのだ。最大のハイライトは《スパニッシュ・キー》。マイルスが完全に新しいファンクなフレーズを吹き、後半チックがスパニッシュで「ひとりリターン・トゥ・フォーエヴァー」している。必聴の76分。それではまた。

【収録曲一覧】
1 It's About That Time
2 Directions
3 I Fall in Love Too Easily
4 Sanctuary
5 Footprints
6 Agitation
7 No Blues
8 Bitches Brew
9 Spanish Key-The Theme
(1 cd)

Miles Davis (tp) Steve Grossman (ts, ss) Chick Corea (elp) Dave Holland (b, elb) Jack DeJohnette (ds) Airto Moreira (per)

1970/4/12 (San Francisco)

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