終末期のお年寄りの胃に直接栄養を送り込む「胃ろう」を巡って賛否の声があるなか、再び口から食べることで生きる意欲を取り戻してもらおうという“挑戦”が介護現場で始まっている。
胃ろう本来のメリットは栄養状態を改善する効果が高く、体力が戻って再び口から食べられるようになることだ。しかし、その趣旨は次第に変容し、口から栄養を取れない高齢者が一日でも長生きできる治療、つまり延命措置ととらえられるようになった。胃ろうの実態について調査し、共著『老い方上手』(WAVE出版)で、そのデメリットも含めて指摘した東大大学院人文社会系研究科死生学・応用倫理講座の会田薫子特任准教授が言う。
「ここまで普及した背景には、経営面で入院日数を短縮させたい医療機関側がまだ口から十分に食べることができない患者に早期退院を促そうと勧めたり、介護施設側が食事の手間を減らし誤嚥(ごえん)のリスクを避けるために入所者に提案したりするケースが増えたことも影響しています」
結果、日本は世界のトップを走る長寿国ながら「胃ろう大国」と呼ばれるようになった。こうした現状に専門家が異論を唱え始めたのが2011年ごろから。特養などを運営する法人で構成する「全国老人福祉施設協議会」(東京都千代田区)はモデル事業「胃ろう外しプロジェクト」に乗り出した。参加した施設の一つが青森県弘前市の特別養護老人ホーム「サンアップルホーム」だ。
総括主任介護職の大里めぐみさん(42)によると、施設に入居する経管栄養の延べ46人について11年6月から14年10月まで調査したところ、34人が1日2~3食を普通食に戻せた。食べる訓練を始めて1カ月以内で戻せたのが15人、1カ月以上は19人に達した。