モデル事業の責任者である竹内孝仁・国際医療福祉大大学院教授は、慢性的な人手不足の施設が介護の効率化をはかるために、とりわけ食事介助を短時間で済ませようと、のみ込み困難な人に流動食を与えてきた歴史があると語る。
「こういう考え方が咀嚼(そしゃく)や嚥下機能を低下させて胃ろうの誘因になった面があります。プロジェクトの目的は胃ろうを外すのではなく、『最期まで好きなものを自分の口で食べたい』というお年寄りの思いをかなえるのが狙い。そのためには介護者のケアの質を向上させる必要がある」
たとえば高齢者が食事する際、多少時間がかかっても、介護職はその人ののみ込みや食べ終えるのを待つという姿勢を貫く。
サンアップルでは食事中にお年寄りがむせると、職員はその原因を必ず確認し、対策を講じる。また寝たきりにならないよう、入居者に水を少しずつ飲ませて膀胱に尿をため、そこに職員が定期的に排泄介助に入り、ポータブルトイレを使えるようにしたり、おむつを外したりする。
とはいえ、すべての人が胃ろうを外せるわけではない。病気によっては経管栄養に頼らざるを得ない人がいるのも事実だ。脳梗塞などの脳血管障害やパーキンソン病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経難病、脊髄小脳変性症がこれに当てはまる。それでも最近では安易な胃ろう造設に歯止めをかけようとする声や、「口から食べる喜び」を取り戻させようとする流れが強まっている。
日本老年医学会は12年1月、「高齢者の終末期の医療およびケア」に関する「立場表明」を10年ぶりに見直した。その骨子は、すべての人は人生の最終段階で最善の医療及びケアを受ける権利を持つと位置づけた上で、胃ろうを含む経管栄養などについて「患者本人の尊厳を損なったり苦痛を増大させたりする可能性があるときには、差し控えや撤退も選択肢として考慮する必要がある」と明記した。厚生労働省も昨年4月、胃ろうを外せる患者を増やすために、局所麻酔で10~15分程度で胃ろうが造設できる「PEG」手術の診療報酬を4割下げ、胃ろうが本当に必要かを調べるためののみ込み機能の検査や術後のリハビリへの加算を手厚くした。
※週刊朝日 2015年4月17日号より抜粋