「周囲に農家出身はほとんどいません。家を継ぐためではなく、純粋に興味があって農業に向き合っている学生が多いと思います」(鵜家さん)

 なるほど。学ぶ対象として、農業は非常に魅力があるようだ。

 最後に、純粋に農業に向き合い続けて起業に至ったバイオベンチャー企業「ユーグレナ」の出雲充社長(35)の話を紹介しておこう。

 出雲社長は東大文IIIに進学したものの、大学1年生の夏に訪れたバングラデシュでの子どもたちの姿に衝撃を受け、3年時に農学部へ転部した。

「コメや小麦がたくさんあるのに、栄養失調に悩む子どもたちがいた。一生、頭から離れない光景です。どこにでもある栄養価の高いものを見つけたいと思いました」(出雲社長)

 それが微細藻類のミドリムシ(学名・ユーグレナ)だった。以来、研究に没頭し、卒業後に勤めた都市銀行を1年で退職すると、05年に起業。世界で初めてミドリムシの屋外大量培養に成功すると、紆余曲折を経ながらビジネスを軌道に乗せ、12年に、東京証券取引所マザーズ上場を果たした(14年12月、東京証券取引所第1部に市場変更)。今、ミドリムシを原料に、食品や燃料、化粧品まで多くの商品を製造している。

「農学部での『学び』を水平転換すると社会貢献につながります。さらに、切り口を変えるとベンチャーになる。ただ、その原点には、探し物を見つけるようなワクワク感が絶対に必要です。『就職に有利だから』という理由だけでは続かない。マニアックですから」(同)

 農業を取り巻く技術はまだまだ伸びしろが多くあるといい、出雲社長は「農系学部は今がチャンス。ぜひ『好きだから』という理由で目指してほしい」と話している。

週刊朝日 2015年4月17日号より抜粋

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