
今年5月に設立60周年を迎える在日本朝鮮人総連合会(以下、朝鮮総連)にとって、前代未聞の事態が起きた。3月26日、朝鮮総連のトップである許宗萬(ホジョンマン)議長ら幹部の自宅が、京都府警と神奈川、島根、山口県警の合同捜査本部によって家宅捜索された。過去に朝鮮総連本部が捜索されることはあっても議長宅に入ることはなかった。
家宅捜索に先立ち、東京都台東区の食品卸売会社「東方」の社長ら2人が逮捕された。2010年9月、北朝鮮産のマツタケ1200キロを中国・上海経由で中国産と偽って輸入したというのが逮捕容疑(外為法違反)だ。
捜査当局によれば、不正輸入には朝鮮総連が組織的に関与している疑いがあるとして、昨年5月、東京都内の貿易会社など十数カ所を家宅捜索、押収物などから許議長の関与をうかがわせる内容の文書が見つかったという。
それにしても、5年前の案件がなぜ今ごろ、家宅捜索に至ったのだろうか。コリア・レポート編集長の辺真一氏が言う。
「外為法違反の公訴時効が5年で、その期限が迫っていた。タイミング的に見れば、日本人拉致問題解決に向けて北朝鮮にプレッシャーをかけることが大きな狙いでしょう」
北朝鮮側が拉致被害者の安否を再調査中にもかかわらず、駐日大使のような存在である許議長の自宅を家宅捜索すれば、4月上旬に予定されている日朝協議に影響を及ぼしかねない。今回の捜査は首相官邸の暗黙の了解なくしては踏み切れなかったはずだと辺氏は言う。安倍首相は日朝協議直前の4月3日、拉致被害者家族会の飯塚繁雄代表らと1年ぶりの面会をする。
日朝関係改善に向けた安倍政権の“成果”と強調する昨年5月の「ストックホルム合意」。その中で経済制裁の一部解除を約束したが、安倍政権自らが「ストックホルム合意」を反故(ほご)にするわけにはいかない。そこで、北朝鮮に対し、効果的に圧力をかけつつ、家族会からも理解を得る方策として、朝鮮総連への締め付けを行ったという。
「安倍政権はこれまで北朝鮮との“対話”の姿勢を見せたが、これからは圧力をかける。捜査はその“のろし”と言えるでしょう」(前出の辺氏)
※週刊朝日 2015年4月10日号