
強度近視の人は、年をとるにつれて目の病気を合併しやすくなる。おもな病気とその初期症状、早期発見するための注意点を、杏林大学病院眼科教授の平形明人医師に聞いた。
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網膜はものを見るための非常に重要な組織です。強度近視の人は、この網膜が傷つく危険性が高くなります。
「近視性牽引黄斑(けんいんおうはん)症」「視神経障害」と並ぶもう一つの合併症である「黄斑部出血」は、高齢者に多い「近視性脈絡膜(みゃくらくまく)新生血管」と20~40代に多い「単純出血」が原因になります。
前者は、脈絡膜が引き伸ばされてもろい血管が新しくでき、網膜の下に伸びて増殖する病気です。物が歪んで見える「変視症」などが起こり、進行すると重篤(じゅうとく)な視力低下にいたります。
長い間よい治療法がなかったのですが、14年、新生血管を作りにくくするVEGF阻害薬が、強度近視の治療にも保険承認されました。これを硝子体に注射する「抗VEGF療法」が始まり、進行を抑制できる可能性が出てきました。
後者は脈絡膜が引っ張られて薄くなり、わずかに眼底に出血するものです。出血場所によっては、見たいところが見えない「暗点」や視力低下が見られます。数カ月で自然に改善することが多いのですが、その後、脈絡膜新生血管を起こすこともあるので、経過観察がすすめられます。
近視の人は眼球が大きいため網膜に薄い部分があることが多く、そこに小さな亀裂が生じる「網膜裂孔(れっこう)」を経て「網膜剥離(はくり)」を起こすことがあります。そのサインは目の前に糸くずのようなものが見える「飛蚊症(ひぶんしょう)」の悪化、視野に稲妻様の光が走る「光視症」、それと視野欠損で、治療をしないと重篤な視力障害につながります。網膜裂孔だけならレーザーによる光凝固、剥離なら手術が行われます。
こうした障害は片目に起こりますが、普段は両目で見ていますし、近視の人はメガネをはずしたときなど見えにくい世界に慣れているので、初期症状を見逃しやすいものです。
月1回は、将棋盤のようにはっきりした格子柄を片目ずつ見て、暗いところがないか、線が歪んでいないか、視野に欠損がないかなどをチェックし、見え方に変化や異常があったらすぐ眼科を受診してください。
※週刊朝日 2015年4月3日号