
43年ぶりのブルーノート復帰作
Without A Net / Wayne Shorter (Blue Note)
発売前から大きな話題を呼んでいた新作である。名門ブルーノートへの43年ぶりとなる復帰作というのも記録だろう。前作『ビヨンド・ザ・サウンド・バリア』から8年ぶりであり、これは74年の『ネイティヴ・ダンサー』と85年の『アトランティス』の11年に次ぐ長い間隔だ。昨年7月にノルウェーで『フットプリンツ~評伝ウェイン・ショーター』の著者ミシェル・マーサーと会った時に、ショーターの新作が途絶えて久しい、との話題になった。その時点では本作に関する情報は明らかでなかったが、前作の後にヴァーヴから新作が出る計画があった、とミシェルは教えてくれた。
注目が集まる中でショーターが選んだのはライヴ・アルバムだった。2000年代以降のリーダー作3タイトルの内、1枚目の『フットプリンツ・ライヴ』と3枚目の前作がやはりライヴだったことは、アルバム制作に対するショーターの姿勢を考える上で重要なファクターだ。これはブルーノートの60年代にも、CBSの80年代にも認められない特徴。自分の音楽を表現する場所としてのステージを大切にしながら、毎回高いクオリティの演奏を継続しているからこそのライヴ・アルバムなのだと思う。
本作の全9曲中、6曲をショーターのオリジナル新曲が占めており、アルバムのブランクがあった間にライヴ・ステージをその発表の場としていたことがわかる。アルバムはショーターがマイルス・デイヴィス『マイルス・スマイルズ』(66年)に提供した#1でスタート。同様にアルバムの1曲目だった45年前の初演はトランペットとテナーのユニゾン・テーマで始まり、トニー・ウィリアムスのリズミカルなドラミングがバンドを推進したのだが、ここでのショーターはソプラノを吹く。しかもブライアン・ブレイドが独特の変則的なビートを刻むため、楽曲の印象はがらりと変わっている。冒頭でダニーロ・ペレスが低音域にこだわったのは、初演のハービー・ハンコックのピアノ・ソロを踏まえてのことかもしれない。もう1つのセルフ・カヴァー曲#4はウェザー・リポート『プロセッション』収録曲で、テンポ設定はほぼ同じ。29年前の初演ではテーマ・メロディをジョー・ザヴィヌルが弾き、ショーターがソプラノとテナーのアドリブでつなぐ構成だった。テーマ・ステイトメントにこだわる本作のショーターの演奏からは、あの頃とは違う今の自分を表現したいとの欲求が溢れている。ドラマティックな展開が感動を呼ぶ#8を聴くにつけ、10年間のバンド・キャリアがもたらした成果なのだなと納得。唯一管楽器クインテットが加わったウォルト・ディズニー・コンサート・ホールでの#6は、23分に及ぶ大作で、近年クラシック音楽にも取り組んでいる成果の反映と言えよう。8月25日に80歳の節目を迎えるショーター。3月の久々の来日公演にも期待が高まるばかりだ。
【収録曲一覧】
1. Orbits
2. Starry Night
3. S.S. Golden Mean
4. Plaza Real
5. Myrrh
6. Pegasus
7. Flying Down To Rio
8. Zero Gravity
9. UFO
ウェイン・ショーター:Wayne Shorter(ts,ss)
(allmusic.comへリンクします)
ダニーロ・ペレス:,Danilo Perez(p)
ジョン・パティトゥッチ:,John Pattitucci(b)
ブライアン・ブレイド:,Brian Blade(ds)
2011年ヨーロッパでのライヴ録音