モルガン銀行東京支店長などを務めた“伝説のディーラー”藤巻健史氏。トマ・ピケティ氏の言う「富裕層課税による格差是正」は日本ではすでに行われていると持論を展開する。

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 格差を是正したいのなら、きわめて簡単な方法が二つある。一つは財政を破綻させること。「全員が平等に極貧になる」からだ。

 もう一つは、ソフトバンク社長の孫正義氏、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏、楽天会長兼社長の三木谷浩史氏など創造性に富み、有能で、日本人の雇用を創出している金持ちの人たちに、米国に移住してもらうことだ。

 レンジャーズのダルビッシュ有投手、青色発光ダイオードのノーベル賞学者・中村修二教授に続け!だ。日本には金持ちがいなくなるから格差が縮小する。有能な人材を迎える米国は金持ちが増えて格差が広がる。

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 最低限の生活を保障するセーフティーネット構築と格差是正は全く別の問題だ。セーフティーネット構築は政府最大の責務である。「国民の生命と財産を守る」ために不可欠だからだ。

 一方、過剰な「格差是正」は「国民の働く意欲」を削ぐ。「働いても働かなくても同じ」なら誰も働かない。さらには「過剰な格差是正」は大増税をしなければ財政破綻を招いてしまう。

 そもそも日本に超富裕層はいないに等しい。日本経済新聞からの引用ばかりで恐縮だが、2月8日付の日経新聞「けいざい解読」によると、売り上げ1兆円以上の米企業のCEOの報酬は平均して総額11億5千万円、日本企業のCEOは約10分の1の1億3千万円だそうだ。

 2月11日付の日経新聞「経済教室」でも、一橋大学教授の森口千晶氏が、成人人口の上位0.1%の超富裕層の平均所得は、米国では3億8千万円なのに対し日本では5500万円に過ぎないと言っている。超富裕層の割合も米国に比べて著しく低い。

 さらに、日本では全体の3.9%に過ぎない「給与所得1千万円超」の人が、税額の49%をも払っている。2月12日付の日経新聞「経済教室」では、国立社会保障・人口問題研究所部長の阿部彩氏が、「ごく一部の人の負担増だけで(16%の)貧困層への投資を充実させ、将来の世代への社会保障給付を維持することは不可能」と指摘している。

 つまりは、「自分以外の誰かの金で格差是正を」はもう無理ということだ。オーストラリア、カナダ、スイスなど相続税を廃止している国は多いし、ほとんどの国は減額している。

 だが、日本は増税に向かっている。先進国では日本くらいだ。富裕層が1億人を超えた中国では相続税はない。米国は相続税を一時なくした。それを2011年に復活させたが、例えば、子ども1人が親から財産を引き継ぐ場合、相続税は1千万ドル(約12億円)までは無税なのだ。法定相続人2人なら4200万円超から相続税を取られる日本とはえらい違いだ。

 日本では、多額の収入を得る人が少ないうえに、何代にもわたる過重な相続税の支払いで長者はもういない。フランスの経済学者トマ・ピケティ氏が言う「富裕層課税による格差是正」は、日本ではすでに十分すぎるほど行われているのだ。

 過去20年間で、国の実力ともいうべき名目GDP(国内総生産)は、米国2.4倍、英国2.4倍、韓国4.5倍、中国においては15.9倍にもなった。だが、日本は減少している。その理由は、この過剰なる「結果平等」という社会主義体質だと、私は思っている。

週刊朝日 2015年3月20日号