村木:そうでしたか。
北原:釈放されることも、直前まで教えてくれないんですよね。私が警察の口から釈放と聞いたのは、22時の釈放の10分くらい前です。もちろん何となくはわかるんです。就寝時間なのに、私だけ布団を用意しなくてよかったので。でも、「釈放ですか?」と聞くと、「さあ、夜中になるまでわからない」と言われました。警察も個々人は悪い人じゃないんでしょうが、組織として被疑者には厳しくあたることが、仕事として求められているようでした。
村木:20時過ぎには釈放は決まっていたのに。
北原:私はこれまで事件を取材する側にいました。でも、実際に容疑者たちがどのような景色を見ているのか、想像が及ばなかった。他人と目を合わせてはいけないとか、手錠をかけたままトイレのすぐ横でコッペパンを食べさせられた。至る所に人の心を壊すようなシステムが張り巡らされていました。私は4日で出られましたが、もっと長かったらどうなったんだろう……。
村木:日本で勾留請求却下が認められるケースは1%程度です。それでも、少しは良くなってきている。なぜかというと、裁判員裁判を経験する裁判官が増えてきたから。つまり、勾留するかどうかを判断するのは裁判官なのですが、この被疑者に逃亡の恐れがある、罪証隠滅の恐れがあるということを、一般市民の方がちゃんと理解できるかどうか、考えるようになったんです。今までは、検察官が請求したら、すぐに身体拘束の手続きを取っていました。日本の裁判官が、人の自由を拘束することについて、ようやく敏感に考えるようになってきたのです。
北原:私は、その1%に入ったんですね。
村木:そうです。逮捕は社会的な信用を失うだけでなく、人間関係も壊す。だからこそ、身体拘束する側の人は慎重にならねばなりません。警察にとって身体を拘束するのは、すごく楽なんですよ。他国ではそんなにすぐに人を捕まえませんし、仮に捕まったとしてもすぐに身体拘束を解く手続きがあります。
たとえば、南アフリカの義足ランナーが、自宅で恋人を射殺した容疑で裁判にかけられましたが、逮捕されて10日ほどで保釈されました。しかも、国外の試合に参加してもいいと、保釈条件も緩和されました。